コラム

自治体における民間連携に関するコラム⑮ 計画への固執と偏愛

2018.07.10

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

公共施設等総合管理計画が要請上の策定期限を迎え、形式上はほぼ全ての自治体で総合管理計画が整備された。いよいよ自治体経営と公共施設マネジメントが実務レベルでリンクすることが期待されていたわけだが、かなり多くの自治体において、施設類型別の個別施設計画や地域ごとの再配置計画の策定、つまり「計画づくりの第二章」の幕が開いてしまった。

公共施設マネジメント関係のセミナーでは、コンサルタントを中心とした講師から「個別施設計画を早く作りましょう、そうしないと総務省の地方財政措置が受けられませんよ。」と唖然とするメッセージが異口同音に発せられるとともに、受講している実務担当の行政職員が真剣にメモを取る姿がデジャヴのように繰り返されている。

筆者がアドバイザーを務めるある自治体でも、実務担当者は実践を志しているものの、管理職レベルでは「個別施設計画を作らないと、公共施設マネジメントができない。」との嘆きが充満してしまっている。

では、なぜ行政はこれほどまでに計画に固執するのだろうか。まず考えられるのは、「計画行政」なる言葉が、未だに行政職員の思考回路の中枢を支配していることだろう。総合計画・基本計画・実施計画と何段にも積み重なり、そして都市計画マスタープラン、緑の基本計画など多分野に枝分かれする複雑な計画体系が行政運営(≠自治体経営)の根幹であり、それぞれの計画こそが正しいものだと無垢に信じ、偏愛ともいうべき状況となっている

しかし、大半の計画は、抽象的な理念が中心で財源も含めた経営的な観点が欠落していたり、無理に財政フレームに押し込めるために必要な事業(費)を削減していたり、イニシャルコストだけしか考慮されず、当該事業(施設)が将来の自治体経営に及ぼす影響を考慮していなかったり、あるいはコンサルに丸投げして魂の宿っていないものだったりしてはいないか。

総合管理計画で記される「30年で施設総量30%削減」といった目標も、厳しい財政状況の中で必要な公共サービスを提供するために公共施設やインフラをいかに経営してくべきか、そのためにやること(できること)は何かを素直に考えれば、目標は変わるのではないか。大規模な施設における適正なコスト削減や高質なサービス提供による対価としての歳入確保、公共不動産を活用したビジネスなどが本来は考えるべき内容であり、(間接的にファシリティコストは削減されるかもしれないが)総量削減は手法の一つにすぎず、目標にはなり得ないだろう。

仮に、こうしたことに多少は気づいていたとしても、計画を拠り所にする真の理由は、「計画に責任転嫁」し、言い訳の材料として、目の前で起きている公共施設やインフラの老朽化・公共サービスの陳腐化の問題から目を逸らして先送りし、他人事にできるからではないだろうか。こうした残念な経験は、筆者自身も多くの自治体で経験している。

一方で、小田原市では、庁内でPPP/PFIを活用することで解決できそうなリアルな課題を抽出し、関係職員が7件の事案に対して、それぞれ先行自治体の事例や民間事業者のヒアリングなども含めて自主的に研究し、それをアドバイザーも含めてリアルな解決策としてブラッシュアップしていった。少し前の事例ではあるが、現在も様々な部署からプロジェクトの進捗のたびに連絡をいただき、着実に前に進んでいることが伺える。

廿日市市では、宮島地域のインフラ系施設を包括委託するための公募関連資料の作成を支援したが、この事例では市の関係者が一堂に集い、宮島在住の職員が極端に少ない中で将来の災害時対応まで含めた可能性を考えながら、リスク分担表に至るまで一言一句の関連資料の作成を自分たちの手で作成している。

同様に武蔵野市では、武蔵境駅の駅前市有地活用事業において、猛烈な反対運動に巻き込まれた経験も踏まえ、市民や議会と合意形成しながら引き続き公有財産の貸付事業を展開していくためのフローを作成することとなった。こちらも関係部署だけでなく、庁内公募も含めたワーキンググループを組織し、徹底的に関係者で議論しながら検討が進められた。

いずれの事例も、関係職員が目の前で起きている問題を「自分ごと」として捉え、自分たちらしい解決策を模索しながら見出している。そして、小田原市ではアドバイザーの手を離れた後も少しずつ自分たちの手で事業化に向けて動き、廿日市市では優先交渉権者選定後の詳細協議は全て職員が自ら行い、武蔵野市では貸付フロー案の議会への説明を、職員がアドバイザーに頼ることなく自主的に実施している。

これらの事例の更なる共通項こそが、計画行政(総合管理計画や個別施設計画)とは無縁の世界で、民間事業者とのリアルなビジネスベースでの連携を含めて検討されていることである。以前のコラムでも指摘したように、行政は理論値・合理性・理想的に物事を意志決定することができず、残念ながら、利用者をはじめとする多様な市民の意向・議会との政治的な要素を含めた調整などを経て、何とか合意形成できる範囲で意志決定していくしかない。このような現実的な制約があらゆるプロジェクトに課せられている中で、計画行政がいかに無力であるのかは、ある程度経験を重ねた公務員であれば痛いほど身に染みているのではないか。

それにも関わらず、未だに多くの計画策定では、コンサルタントがそれらしい案を作成し、自治体の職員が添削する形式が取られている。この形式では、職員はいつまでも他人事から脱却できないし、評論家になってしまう。自分たちらしい言葉で構成されていない計画だからこそ、議会や市民説明など重要な場面で説明に窮するのである。そして、コンサルタントも行政が想定する(欲する)結論を前提とした案を策定してしまうから、余計にリアリティが欠如する。

行政とコンサルタントの関係を見直し、自分ごととして考えるプロセスをビルトインすること、目の前にある課題に真摯に向き合うこと、生きるための資金・ノウハウ・マンパワーの調達手段としてPPP/PFIを活用すること、これらの要素が揃った自治体でのみ、自分たちの未来を見据え、自治体経営に活用できる計画が機能するであろうし、そのような自治体では計画に依存しないであろう。

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