コラム

自治体における民間連携に関するコラム⑥ PPP/PFIは嵐の中に

2017.04.25

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

政府は2016年5月18日にPPP/PFI推進アクションプランを改正し、10年間のPPP/PFIの事業目標規模を10~12兆円から21兆円に上方修正して様々な数値目標を明示した。これに先行して2015年12月には内閣府・総務省連名で「多様なPPP/PFI手法導入を優先的に検討するための指針」について要請が発出されている。人口20万人以上の自治体は2016年度末までに優先検討規程を整備するとともに、10億円以上の施設整備費または年間1億円以上の維持管理運営経費が必要な事業については、他の手法に優先してPPP/PFI手法導入の検討を(ほぼ)義務付けられるようになったのである。

国が主導して自治体の事業手法の選択に口を出す事態に至ったわけだが、これは国が補助金・交付金を十分に準備することが困難になり、自治体に新たな資金調達・自立を促さなければいけない財政状況となったことを示す一端であろう。ネガティブな要素が多少あるものの、PPP/PFIを自治体経営・まちづくりの手法として活用していくうえで、(人工的かもしれないが)上空に追い風が吹いていることは間違いない。

しかし、地上レベル(現場)においては、公共施設等総合管理計画の策定要請で公共施設やインフラの更新問題を解決する「魔法の手法」のように取り上げられたPPP/PFIが、一部の自治体やプロジェクトを除きそれほど浸透しておらずほぼ無風状態である。国のアンケート*結果によると、自治体側のPPP/PFIの課題として「利用する利益を見出せない、対象となる案件がない、魅力ある土地・建物がない、全庁的に取り組む意識・体制がない、地元企業・経済の活性化及び優位性の確保が難しい、効果の把握が困難で事務的負担も大きい、実務経験・事業のノウハウを持っていない」などが挙げられている。
*平成27年度関東ブロックプラットフォームコアメンバー会議事前

これらは「①抵抗感≒やらなくてもクビにならないので今までと同じ生活を望むこと、②認識不足≒単年度会計の財務、従来型手法が前提なので問題意識・危機感が生じないこと、③排他性≒行政区域内のみでの資金流通・業務の仕組みが前提となっていること」の3点に集約されるだろう。

この自治体職員・組織の内向き志向による無風に追い打ちをかけるのが、PPP/PFIに対する外部のアレルギーと局地的に発生する反対運動(=逆風)である。ある自治体では、PPPを活用して建設を予定していた公共施設の基本設計のパブリックコメントの最中に突然、議会提案の住民投票が実施され、単純化された○×判断の結果、事業全体が白紙に戻ってしまった。別の自治体では、数年間にわたり中学生を含む多様な市民との意見交換、緻密なデータの収集・分析を経て丁寧に練り上げられた再配置計画に基づくPFI事業が、一部の人のネガティブキャンペーンによって、事業スキームの大幅な見直し・縮減を迫られることになった。

いずれの事例も、プロジェクトの前提となる公共施設や財政の状況、何もしないことで生じるコスト・市民サービスなどは無視され、極小化されたごく少数の論点を拡大解釈することで、反対派は「悪=行政」を打ち滅ぼす正義の味方として「反対のための反対」を繰り広げる。反対派に共通するのは、議論の対象とすべき「それを上回る代替案(未来の提示)」がないことと、市場性を含む経済的な検証がないまま感情・理想論を主張することである。

もちろん、行政も「絶対的な正義のヒーロー」ではなく、普通に生活する人間の集合体に過ぎない。前述の自治体では様々な反発にも真摯に対峙し、多様で時には解決の糸口すら見えにくい課題と向き合い、生き方を模索しているのである。やろうとしていることが、必ずしも最適解であるとは言い切れないだろう。事業全体を見渡せば効果・価値が見いだしにくい部分や検討不足の要素も残置されているかもしれない。リスクゼロで100%の市民合意の解決策が限られた財源の中で見つかるなら、どこの自治体でも必ずその道を歩むはずである。

PPP/PFIは別のコラムでも記載したとおり、すべての課題を解決してくれる魔法の手法ではない。生きるための資金・ノウハウの調達手段としてPPP/PFIを捉えれば、万能でないことは明白であるし、オーダーメイド型なので様々なリスクが包含されている。

困難な状況の中、これまでの既成概念・既得権益・事なかれ等と向き合って、今までよりも「少し良くなる」ためには、多少の軋轢は避けて通れない。関係者の合意を得るためには、政治的な判断も含めて様々な大人の対応が必要になることもあるだろう。このような中で多少ブサイクになったとしても、机上ではないリアルな未来を拓こうとしているのである。逆風だけを吹かせても、風がやんだ後に残るのは疲弊したまちの姿でしかない。
ごく一部の反対派に迎合することで、苦労して見出した未来への道筋を失う必要性はない。ましてや、何もしないで逆風を恐れてその場に立ち止まることには全く意味がない。

目まぐるしく変わる社会経済情勢と自治体を取り巻く環境は、PPP/PFI云々の地表付近での無風・逆風ではないレベルの猛烈な嵐である。地表付近の微風に煽られることなく、吹き荒れる嵐の中でいかに舵を取り、未来へ向けて自分達が生き残っていくのか。自治体には知恵と覚悟、明確な道標と具体的な行動が求められている。

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