コラム

自治体における民間連携に関するコラム②担当者の情熱はなぜ組織として生かされないのか

2016.08.09

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

自治体を取り巻く主要課題のひとつは、公共施設やインフラの老朽化・一斉更新問題である。必要な改修・更新コストと投資可能な財源の乖離を埋めるため、公共施設等総合管理計画で「30年間で施設総量30%削減」などの総量削減目標を掲げる自治体が多いが、経済学でこの問題はケリがつくのだろうか。

離島や山間部を抱える自治体では、地域単位で診療所が必要かもしれない。一方で大都市では民間施設の一部を間借りする、公共サービスそのものを民間代替できるかもしれない。結果的に市民一人当たりの必要な公共施設面積には、自治体によって大きな違いが生じうる。

総量削減は様々なコスト削減に直結するものであり、おそらくすべての自治体が避けて通れない道であろう。ただし、これはあくまで手段・途中経過であり、本来の目的は公共不動産をどのように自治体経営・まちづくりに生かしていくかである。

(名称は何でもよいが、)現在、公共施設マネジメント・ファシリティマネジメントに主体的に取り組む熱意・スキルのある自治体職員が急増しており、日々、暗中模索しながら何十年にわたって蓄積してきた巨大な課題と立ち向かっている。

しかし、「個」としての担当者の情熱が実践に結びついている事例は、残念ながら現時点ではあまり多くない。高度な政治的・経営的な判断で反対される場合もあるだろうが、本稿では筆者が体験、あるいは多くの自治体職員との交流で学んだ主な阻害要因について触れてみたい。

1点目に、単年度会計・現金主義に起因する課題意識の欠如である。この財政システムでは直近の市民生活さえ安定していれば改修・更新を含む必要な事業を先送りし、あるいは財政調整基金の取り崩しや起債によって収支バランスを保っていようが特に問題は発生しない。「去年と同じこと」ができれば、わざわざ+αの業務量、議会や市民への説明などの手間とリスクを負担して新しいことをする必要はない。

2点目が、縦割り組織の問題である。民間企業では事業範囲が明確であり、かつ「売上」という共通で単一指標による目標が存在し、社員の生活もこれに左右されるため、意思疎通が比較的容易である。これに対し自治体は、市民生活全般にかかる広範で曖昧な業務範囲をもっている。行政評価で見られるように、成果指標は事業により全く異なるため、統一した尺度での成果測定が不可能である。また職員の生活は業績によらず安定している。縦割り行政では、自らの守備範囲を超えて組織横断的な課題に対応する意識の醸成と意思決定が困難になっている。

3点目が人事異動の周期の短さである。自治体では2~3年周期で異動となることが多く、担当者が所管する業務の本質を理解し、実践に移ろうとした段階で異動となってしまう。本人だけでなく関係者も同じ周期での異動となるため、人事異動のたびに後戻りが発生して前に進みにくい状況が発生している。

4点目が成功体験の亡霊である。上記3点と密接にリンクし、かつ根本的な課題だと思われるが、多くの自治体の幹部職は右肩上がりの社会で実践を積み、バブル崩壊以降の失われた20年を行財政改革とともに過ごしてきた世代である。人員削減・事業の先送り等を主導し、一定の成果をあげてきた。上り下りの両方を経験した貴重な世代であるが、ごく一部の幹部職は、統一基準による財務諸表をはじめとする変革の潮流についていけず、(悪い場合にはそのことに気づかず)担当者の熱意を受け止めきれていない。

この「成功体験の亡霊」がどのぐらい残り、あるいは払拭できているかが自治体の実践力、担当者の想いを組織として生かせているかどうかを左右しているのではないか。

成功体験の亡霊は、「ふつうは・・・しないぞ」「近隣自治体でやっているのか」「議会に説明できるのか」「今やる必要があるのか」「・・・だと指摘されるのでは」「・・・のリスクはどうする」「事務分掌に書いてあるのか」「予算が厳しい」「計画に位置付けられていない」と豊富な経験をもとにけしかける。会議では担当者vs(課題らしきことは指摘するが、対案を全く示さない)多数の評論家という変則デスマッチが繰り広げられることとなる。

担当者の情熱が成功体験の亡霊により奪われていくことで負のスパイラルが伝播・増長し、幹部職員も議会の顔色を伺うことに終始することとなる。成功体験の亡霊は、悪気はないかもしれないが最前線で粉骨砕身する担当者を疲弊させているのである。

裏を返すと、幹部職員が担当者の熱意を正確に受け止め前を向くことができれば、自治体は良い方向に回り出すだろうが、幹部職員にとっては、担当者の情熱・発言・行動には違和感を覚えるかもしれない。

公共施設やインフラをはじめとする現在の行政課題は、議会対応のための表面的な知識や計画行政では対応できない。担当者の想いや悩みを共有するために、まずは成功体験や価値観をフラットにしたうえで担当者とともに実態を知り、少しでも手を動かしてほしい。そのうえで徹底的に議論しても理解できなければ、最低限、反対したり評論家になることだけは避けていただきたい。担当者を信じ、その力を最大限に発揮させる環境を構築することが、幹部職の役割・度量であり、このまちを良くする第一歩になるであろう。そして、成功体験の亡霊を除霊することで多少時間はかかるかもしれないが、前段の3つの阻害要因は連鎖的に解消されていくはずである。

現場で実務を担当していた者として、担当者は上司、幹部職に大きな期待と信頼をしていることを申し添えたい。

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