コラム

自治体における民間連携に関するコラム①なぜ自治体は自分たちだけで生きられないか ~生きるための手段としてのPPP/PFI~

2016.06.09

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

2000年の地方分権一括法により国と地方は対等の関係となり、近年では地方分権、地方創生の名のもとに、地方自治体は「自分たちで生きていく」ことが求められるようになった。

しかし、財政力指数が1を超える自治体は全体のわずか3%(※1)に過ぎず、大半の自治体は制度上、財政面でも国に依存しなければ行政運営できない状況になっている。これに加えて、生産年齢人口の減少などによる歳入の減少、急増する扶助費の確保、市民ニーズの多様化・高度化、公共施設やインフラの更新問題など、自治体の財政を取り巻く環境は複雑なものとなっている。

総務省からの各種要請や自治体の自主努力による事業・コスト・人員の削減といった行財政改革が行われた結果、単年度会計における財務諸表は夕張市を除き、全自治体で健全な指標(※2)となった。一方で、一連の歳出サイドの抑制に特化した行財政改革の歪みとして、職員構成のアンバランス化(臨時職員・再任用の急増と正規職員の減少、優秀な職員の退職等)、公共施設やインフラの老朽化、自治体の底力・活力の低下が顕在化している。

更に、一部の職員・自治体の不祥事やコンプライアンスの強化等により、行政に対する議会や市民の目は厳しさを増し、リスクや手間を伴う「新しいモノの考え方・やり方を変えること」が敬遠されやすい状況に陥っている自治体が多いのではないか。この息苦しい負のスパイラルは、個人・組織のちょっとした言動に起因することが多く、裏を返せば、誰かが何かを少し前向きに変えて成果を出していくことで変えられるかもしれない。

多くの自治体と交流するなかで感じるのは、問題意識が高い職員はほとんどの自治体に存在するものの、組織としての思考回路は前向きと後ろ向きに二極化していることである。

国の財政状況は自治体より厳しく、普通交付税として交付すべき財源不足を補填するための臨時財政対策債の大量発行に代表されるように、国に自治体を助ける余力は残っていない。また、地方自治の拠り所とされる地方自治法は2000年に大改正がされたものの、根幹は約70年も前に作られたものである。右肩上がりを大前提としたシステムは、戦後復興から高度経済成長、バブル期まで日本を支えてきたが、現在の社会情勢に対応するためには新たな価値観をそれぞれの自治体が持ち、「自分たちの生き方」を決めて歩いていかなければならない。

自治体はこれまで、国の方針に基づき税を再配分する(財政状況が悪化した場合は歳出を抑制する)行政運営をしていればよかったが、この仕組みが通じなくなった以上、自主財源を確保する歳入サイドや各種業務のやり方そのものを見直すなど、経営感覚を持った「自治体経営」が必要になっている。こうした生き方を考えるときに、従来と全く異なるのは「①お手本が自治体内部にないこと、②必要な財源がないこと、③動ける人間が決定的に不足していること」である。

では、これらをどこから調達するのか。答えは「外から」しかない。つまり、他の自治体や民間企業と有機的なネットワークを構築し、ノウハウ・資金・マンパワーを調達するPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民が連携して公共サービスの提供を行うスキーム、公民連携)/PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ:公共サービスの提供を民間主導で行うことで効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方)が「生きるための」ひとつの可能性として浮かび上がるのである。これまでのPFIは、従来型の行政運営を前提としていたためにサービス購入型・延べ払いのPFI法に基づくPFIが大半を占め、PPPに至っては指定管理者制度のみが中心となっていた。更に指定管理者制度も本来の趣旨はサービス向上であったはずが、制度導入から10年を経過し、アウトソーシング・コスト削減の手法として短絡的に捉えられることも多くなってきた。

これらの発想を転換し、PPP/PFIを現場で発生している個々の問題に対して、ノウハウのある人たちと手を組んで(≒PPP)、必要なコストはビジネスベースで調達(≒PFI)し、リスクとリターンを明確にして解決していく「自治体が生き残るための手段」として積極的に捉えれば、その可能性は無限に広がるはずである。具体的な事例紹介は改めて行うこととしたいが、全国各地で多様なPPP/PFIが展開され始めている。これらに共通するのは、既成概念・既得権益・縦割り・事なかれ主義といった頻繁に行政が揶揄される事項をブレイクスルーし、明るい未来を自らの手で掴もうとする覚悟と試行錯誤を繰り返していく自治体と担当職員の姿である。

最後に、いくつかの自治体の公共施設等総合管理計画ではPPP/PFIを公共施設やインフラの問題を「すべてを解決してくれる魔法の手法」のように取り扱っているが、PPP/PFIは生きるために必要な考え方・実践のための手法であることを念押ししておく。

(※1)総務省_平成26年度地方公共団体の主要財政指標一覧
(※2)財務省_平成26年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要(確報)

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