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木も見て森も見たい(10)~公共資本ストックと地価に関係はあるか~

前回からの続き

地方公共団体が保有している「資本ストック」=固定資産の簿価が、地域の地価を押し上げる効果が有るのかどうか、前回はRを用いてパネルデータ(※1)の推計と結果を提示いたしました。今回は、出力結果が具体的にどういう事を指しているのか、直感的な見方を説明いたします。

式の確からしさ~決定係数

まずは、比較的分かりやすい決定係数から説明いたします。現在、「地価の変動を分野別公共資本ストックの変動で説明できるか?」というテーマに取り組んでいる訳ですが、この仮説が成立するならば、その結果は「どの程度のものなのか?」と思うはずです。決定係数は、正にその「程度」を示しています。

今回の例は、「7つの公共資本(※2)ストックの系列の変動を全部足し合わせると地価の変動になるのでは?」という仮説でした。そこで、決定係数の値が0.68だとするなら、地価変動の68%を公共資本ストックの変動で説明できたことになります。言い換えれば、32%は説明できなかったことになります。この原因は、やはり地価の変動要因には他の変数も影響を与えているが、今回それを明示できていない、ということになります。説明要因に取り込めなかった見知らぬ変数の存在が、「説明誤差」として表現されます。

公共資本ストック投資で地価の上昇を68%も説明できるならば、地価を上げるためには公共投資だ!と思われる向きがあるかも知れません。確かに、先の推計(重回帰分析)によって、地価の変動と公共資本ストックの変動との間に「相関関係」があるのは分かりました。しかしながら、果たして「因果関係」まであるのかどうかについては、もう少し慎重な分析が必要になるため、性急に結論を出すのは早計です。詳しくは、いわゆるEBPM(エビデンスに基づいた政策立案)の話に繋がるため、また別の機会に。

数値が確率分布するとは

推計式全体としては、色々と論点は有るでしょうが、成立していることが確認できました。次は、地価変動の説明に使った個々の公共資本ストックが、果たして「意味が有るのか」という吟味が必要になります。正確には「統計的に有意か」ということになります。ここからは、やや難解になりますが、ご了承願います。

では、結論から先に申しますと、「推計式に使っている資本ストックの数値は、確率的な変数である」です。「確率というが、確かな固定資産台帳上の数値では?」、「適切に会計処理された数値にも関わらず、確率的とかそういう胡乱(うろん)な数値ではないはずだ!」という批判があるのは承知の上です。

私としては、会計上の数値とはいえ仕訳間違いや集計ミスが有るでしょう、ということを主張している訳ではありません。会計数値の元になっている行政の財政活動は、様々な可能性がある中で、様々な選択肢が折り重なり、無数の意思決定が綾なす結果として、実現した1つの結果であります。政治過程上、無数の実現値があり得た中の「たまたま1つ」が確率的に実現し、現在、会計数値に集計されて、我々に観測されていると考えるのは如何でしょうか?

本当は、唯一の絶対的「正解(真値)」があったのかも知れませんが、それは神のみぞ知る、です。「偶然など無い。全ては必然である!」という考え方もあるかもしれませんが、私が先に述べた結論にある考え方をお試しいただければ、実務上において嬉しいことがあるのです。つまり、推計式に使った個々の変数が「役に立っているか」ということを検証できる、という点です。

実際、世の中にはおよそ確率的でない事象など無いことが分かります。事象によっては、どんな感じで確率的なのか?判明している場合が多々あります。例えば、歪みのコインを投げた時に裏表が出る確率は、かなりハッキリしていると思います。他には、歪みの無いサイコロを投げた時に出る目の確率。旅先で知り合いにばったり出会う確率。日常的・一般的事例であれば、勤務先で働いている人(日本人男性)の中に、身長200cmの人がいる確率。滅多に無いことでしょうが、ゼロではありません。

様々な事象について確率的に考えると、現在取り扱っている事象が、元々どんな感じで分布しているのかをイメージする事が可能になります。イメージする、とは曖昧な表現になりますが、例えば、先程取り上げた身長の場合、日本人男性の平均身長と身長分布は、170cm前後の人が最も多く、170cmから遠ざかるに連れて、その人数は少なくなる傾向が示されています。(※3)その結果を、横軸に身長、縦軸に人数を取ると、ちょうど釣り鐘の様な分布をグラフに描くことができるでしょう。従って、勤務先にいる日本人男性で200cmの人は、釣り鐘分布の右の方にあり、勤務先にはほぼ居ない。でも、もし居たら確率的には滅多にないことが起きている、と表現できます。

蛇足ながら、NBA(National Basketball Association)を対象にした場合では、今度は170cmが「滅多にないこと」となるでしょう。実際、NBAが公開しているデータ(※4)によると、2020-2021シーズンの選手身長平均は、6.6フィート(約2m)ですので、釣り鐘分布の真ん中あたりに位置することになります。

説明変数の有意性を説明する前に、確率変数の話で手間取ってしまいましたが、釣り鐘分布をイメージできれば、「統計的検定」の話が飲み込みやすくなるのでは、と私は思います。

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 専任講師 松村 俊英

参考

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