コラム

デジタル社会形成に向けて 第2章(4)~自治体DXの先に~

2022.04.04

訪問型の行政サービスに絞って、その効果測定の段取りを図化しました。(下記記載)
今回は「対象サービスの資源情報収集」ができたとして、その情報から如何にして行政サービスの価値を測定するか、というところから説明いたします。

訪問型行政サービスにおける効果測定フロー図:訪問型行政サービスにおける効果測定フロー

対象サービスの利用者情報収集

利用者情報収集については、これまでも折に触れお話して来ましたが、国やアカデミズムなどから、具体的な価値計測の手順についてマニュアルが出されております。また、このコラムにおいても、価値計測の代表的な手法である「旅行費用法」について、簡単な数値例を使いながら示してきましたが、今回は多少違った角度からお話をしてみようと思います。
利用者情報収集を行うサービスは、どんなサービスでも良いのですが、今回のコラムにおいては訪問型行政サービスを対象としていますので、「公園」(以下、A公園と称する)を利用するサービスと致しましょう。

公園サービスを享受するためには、実際に公園がある場所に行く必要があります。そのため、訪問に掛かるコスト(機会費用)を、最低限の公園利用の価値と考えよう、というのが旅行費用法のアイデアでした。そこで、実際に、下記のようなデータを収集することができたと致しましょう。今後行政のDX化が進めば、データはより簡単に取得できることになるでしょう。

表:A公園訪問人数及び訪問費用(例)
訪問人数(人) 訪問費用(円)
6 90
4 195
2 300
2 300
1 420

上記の表で、自宅からA公園に行くために1回あたり90円掛かる人が6人、ある期間にA公園を利用したことが分かります。以下、1回あたり195円掛かる人は4人、300円掛かる人は2人…、という事実を纏めたものになります。架空の事例であるため大雑把ですが、実際には、同じ人が複数回利用するでしょうし、訪問費用にしても、もっと分散するでしょう。なお、訪問費用については、住所情報と移動手段から近似的に推計することも可能です。

さて、このようなデータセットが集まりますと、これを縦軸に訪問費用(円)を、横軸に訪問人数(人)として、平面上にプロット(散布図)してみます。そうすると、何となく全体的に右下がりの傾向が有る様な気がしますので、直線を引いてみることにします。

散布図(A公園の訪問価値)図:散布図(A公園の訪問価値)

その結果は上記の図のとおりです。直線で全体の傾向を表現することで、訪問費用と訪問回数の関係を、簡単な比例式で解釈することが可能になります。また、Excel等の表計算ソフトを使えば、ほぼ一瞬で上記の様なグラフが描く事が可能です。一見すると只の右下がりの直線ですが、これだけでも色々なことを読み取る事ができます。

まず、右下がりになっていますので、高い訪問費用については、少ない訪問回数が対応しています。(逆は逆)この例では、高い訪問費用(=当該公園から離れた所に住んでいる人)は、あまり利用しないということを指し示します。あと、これは意外と大事な点だと思うのですが、このデータは実際にサービスを利用した人達の実績値だという点です。

つまり、「こんなサービスを始めたら使います?」という、架空のデータでは無いということです。何故、その点を強調するのかと言いますと、例えば「○○地区の景観を守るために、行政が介入しようと思いますが、その際、その費用負担(増税)について、あなたは幾らまで許容できますか?」と質問することで、価値評価を行う手法も有るからです。このようなアンケートに対し、大方の人は真摯に回答するでしょうが、それでもバイアス(※1)がかかってしまうことは避けられません。

したがって、個人の意思表示の結果として、得られた訪問データというのは大変重みがあります。誰に頼まれた訳でもなく、自分で費用を負担して、公園サービスを受益した訳です。ここで、得られた訪問データが、地域あるいは自治体全体の傾向を代表していると言えるならば、図中の直線から作られる三角形の部分が、「その公園の利用価値」を近似していると言えるのでは無いでしょうか?実際はもっと複雑でしょうが、良い感じに直線で近似していますので、三角形の面積の公式で数値を求める事が可能になります。

あとは、このサービス提供に掛かっている行政コストを計算し、上記三角形の面積と比べて、その大小がどうなっているかを計算してみれば、費用対効果(便益)の対比ができるはずです。「経済学入門」の最初に掲載されているような事ではありますが、右下がりの曲線。どこかでご覧になったことは無いでしょうか?

答えは「需要曲線」です。標準的な財・サービス需要量は、価格と逆相関しますので、右下がりになります。さて、ここまで述べた手順で、訪問型行政サービスの費用対効果が計測できるならば、案外簡単かもしれないという印象を持たれるのでは無いでしょうか。簡単なデータセットさえ入手できれば、あとは、表計算ソフトが線を引いてくれます。さらに、線が決まれば、三角形の面積が計算できます。

大枠の話としては、以上の流れになりますが、では、これをそのまま現実の政策決定に使えるか?と問われると、少々乱暴ではないか?という話になります。ここから更に検討を加えないといけない点ですが、実は結構有ります。

例えば、今回の事例では、費用だけで訪問が決まると解釈していますが、

  • 他の要因(公園の設備、利用者の属性など)は、意思決定に影響を与えていないか?
  • 費用だけがサービス利用に影響を与えるとして、その関係を単純な直線で近似したが、実際には曲線なのではないか?
  • ごく僅かなデータだけを使って、地域、自治体全体の傾向を語っているが、サンプルデータに偏りがあったとしたら、今回のデータのみで全体を代表していると言えるのか?
  • A公園に隣接して魅力的なコンテンツがあり、そちらの訪問者が流入しているだけではないのか?

検討を加えるべき点は多々ありますが、その辺のお話を次回以降に。(つづく)

コラムニスト
公共事業本部 ソリューションストラテジスト 松村 俊英

参考

  • ※1データ等の偏り、偏向、先入観のこと。

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