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自治体における民間連携に関するコラム③各論反対は住民エゴなのか

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

公共施設マネジメントを実践に移そうとするなかで、ほぼすべての自治体が苦戦するのが(利用者を中心とする)市民との合意形成である。総論≒施設白書や公共施設等総合管理計画の段階での市民アンケートでは、ほぼすべての市民が「公共施設の見直しは必要である」と回答したはずなのに、各論≒身近な施設の統廃合を持ち出した瞬間、市民から袋叩きにされてしまう。いわゆる総論賛成各論反対である。

このロジックには2つの盲点があるように思う。まず「総論は本当に理解されているか」である。「財政状況や次世代を考えたときに公共施設の見直しが必要だ」はコンセプトに過ぎない。総論とは、具体的な全体の見通し(いつまでに、どの施設を、どれだけ、どういった手法で、どうするのか)を示し、そこから様々な要素を勘案して具現化に向けていくマスタープランであるはずである。曖昧で中身の見えないコンセプトでは、「そうだよね」としか言えないであろう。つまり、本来の総論の議論は、公共施設等総合管理計画ではなされていないのではないか。

次に、「反対するのは市民エゴなのか」である。本稿ではこの点にフォーカスを絞ってみたい。学術的にはNot In My Back Yard=NIMBY、「他では良いけどうちの裏庭ではやめてくれ」、まさに各論反対である。この各論に対して行政は、財政状況、利用率、老朽化度等のデータを駆使して懸命に利用者の理解を得ようと苦心するが、うまくいくことはほとんどない。その施設を利用する市民は、どのような施設であっても全体の10%にも満たないだろう。ヘビーユーザーは更に少数に限られる。次の手として行政は、利用者以外の市民の声(アンケート等)をベースに統廃合を迫るが、客観的な事実を突きつけられた利用者は感情論も含めて反発を強め、議会も巻き込んで混沌としていく。これが公共施設マネジメントを停滞させ、多くの自治体が進めることを躊躇する理由の一つである。

従来型行政では「利用者市民は悪、ワガママなので我慢すべき、客観的なデータを示して粘り強く交渉すれば大半の市民は理解してくれる」となる。果たしてこの論理は正しいのだろうか。利用者からみると「①正規の手続き(予約システム)で予約、②定められた使用料を納付、③適正に施設を利用」しており、何も悪いことをしていない。もちろん税金も完納している。それなのに、行政が(いきなり)一方的に(屁理屈を押し付けて)自分たちの生活の一部を奪おうとする。当然、行政の統廃合案には賛成する理由もないので反対となる。自分たちの声が届かなければ、議員にも「何とかしてくれ!」と援護を求めカオスに陥ってしまう。

では、どうすればよいのか。残念ながら現時点では、明確な答えがどこかに存在するわけでもなく、この問題をすべて解決した自治体も存在しないが、上記の論理構成が成立するとすれば、かすかな希望は見えてくる。

まずは、行政が「経営感覚の欠如」を認めることである。長年にわたって一貫して単年度会計・現金主義を採用してきたために、減価償却費・退職引当金などの当該年度に現金化されないコストに気づかなかった(目を逸らしてきた)ことや、修繕積立金を基金化してこなかった(できなかった)ことがこの問題の根幹である。更に言えば社会経済情勢の変化に即応して20~30年前に問題を直視し、使用料や施設のあり方を少しずつ見直していれば、ここまで追い詰められなかったはずである。要は、行政が自ら蓄積してきた経営課題が顕在化しているに過ぎない。

そのうえで「①強烈な意思、②バーター機能の確保、③(直感的に)理解できる現状」と「④市民側の選択肢・裁量の余地」をもつことが統廃合等を進める基本になるだろう。

「①強烈な意思」は、浜松市のように具体的な施設名と年度を示したうえで短期間に統廃合を進める意思である。署名・SNS・マスコミを通じたネガティブキャンペーンにも臆することなく、首長を含めて組織全体で取り組む覚悟である。

「②バーター機能の確保」は、3つの公共施設をすべて廃止するのではなく、(民間施設を賃貸借してでも)市民理解が得られる範囲の機能を残し、そこに必要な投資をすることで今までより狭く・遠くなるかもしれないが満足できる環境を整備することである。

「③直感的に理解できる現状」は、利用率などのデータではなく「古いよね、あまり使ってるの見たことないよね」という市民感覚で共感できる状態である。この感覚は、コンサルタントや外部有識者では難しく、そのまちの職員にしかわからないものである。

そして「④市民側の選択肢・裁量の余地」は、再配置計画などで行政が細部まで先行決定しないことである。○×しか選択肢を有しない市民は、結果的に×しか選択できなくなる。市民の声を聞くのであれば、ガス抜きや表面上の同意を求めるためではなく、与条件を明確にしたうえで市民側に選択肢・裁量の余地を与えることが必要だろう。また、議会対策・アリバイづくりで市民対応≒見かけの合意形成をするぐらいなら、廃止条例を上程して議会の判断に委ねたほうが効率的で実践的だろう。

いずれにしても、行政が公共施設・インフラの課題を市民に責任転嫁するのではなく、自ら引き起こした課題として直視し、真摯に対応していく姿勢を持つことが第一歩になるだろう。

最後に、熊本地震で5市町の庁舎が被災したことを受けて、全国的に庁舎の改築が加速している。全国の自治体庁舎で耐震性能、防災拠点としての機能を十分に確保することが喫緊の課題であることは間違いないが、年に1度利用するかどうかの市役所にシンボル性・意匠・市民の憩いの場が本当に求められるのか。行政は、公共施設の再編をはじめ扶助費への対応等で市民に大きな負担を強いる中で改めて考えるべきだろう。

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