コラム

老朽化と財政難への「経営」が試される、公共施設マネジメントコラム~「資産」が「負債」になる場合②~

2016.08.19

※本コラムは、「月刊地方財務」(ぎょうせい発行)2016年3月号 東洋大学客員教授南学氏の連載「老朽化と財政難への『経営』が試される、公共施設マネジメント」に掲載された記事です。

東洋大学客員教授 南 学
ジャパンシステム株式会社 ソリューションストラテジスト 松村 俊英

新地方公会計情報の活用

ここまでが、「新地方公会計改革」の方向性、必要性について、一般的に説明されているところである。これだけでも実践するには大変な作業工数であるが、関係者には、大変な作業の割には、得られるものが少ないのではないか、という感覚があるようだ。
その原因の一端は、新地方公会計の情報が、基本的に「過去情報」に基いている事にある可能性がある。「新地方公会計」のままでは、今後の複数年に渡る政策(事業)の分析や意思決定には使いにくい状況にある。そこで、新地方公会計の拡張として、また、施設マネジメントとの連携を考える上で、政策コストや費用便益分析の考え方を取り入れ、将来のキャッシュフローを現在価値として表現することで、バランス・シート等の新しい表現形式が得られるの、という可能性を検証する。

政策コストにおける「費用便益」という発想

表1は、現行の歳入歳出決算から新地方公会計、更に、政策コスト分析、費用便益分析までを比較したものである。
表1:各種財務データの比較

歳入歳出決算 新地方公会計 政策コスト 費用便益分析
表現形式 現金収支 行政コスト計算書、貸借対照表 等 費用(市民負担) 便益と費用(建設費と施設維持費)
特徴 原価償却費、引当金の補正 原価償却費と引当金は考慮済み 原価償却費と引当金は考慮済み
計算方法 単年度現金ベース 資産評価 等 将来キャッシュフロー分析 将来キャッシュフロー分析
数値の安定度 大きい 資産評価方法に依存 計算前提に依存 計算前提に依存
算出根拠 過去データ 過去データ 将来キャッシュフロー 将来キャッシュフロー

出展:高橋洋一[2004]「財政問題のストック分析:将来世代の負担の視点から」を筆者加工

ここで、「政策コスト」とは、現在行っている、あるいは、今後行う事業の維持に必要となる将来の(ネット)資金の総額を「割引現在価値」として、計算するものである。例えば、図書館運営事業をやっていれば、その図書館事業を止めるまで、ずっと建物維持費や図書購入費、人件費等、水光熱費等々、諸々の経費が発生し続ける。「ネット」というのは、もし、使用料・手数料など収入があれば、その分だけ、将来の(利用者以外が負担すべき)支出は少なくて済むため、その収入分を差し引いた残額を考慮している事になる。
「割引現在価値」というのは、例えば、現時点で、今年の10,000円と10年後の10,000円が同じ価値と言えるか、言えないとしたら、その差を調整して考えておこう、という時に採用される価値の表現方法である。仮に、金利が1%で、この先変わらないとしたら、10年後の10,000円と現在の9,053円は等価であると考える。金利が4%であるなら、同様に、6,756円である。この金利(社会的割引率)の設定は理論的に難しいが、国交省[2009]などでは、4%を採用している。
「費用便益分析」というのは、公共事業等において、投下される費用とそこから発生すると思われる便益(効果)を割引現在価値で比較して、投資効率性を事前に計測しておこう、というものである。当然に、この便益が費用を上回らない限り、行われる投資の正当性は無い、とされる。便益の測定については、「事業実施によって発現することが予想される効果については、主たる効果を網羅的に列挙することとし、列挙された効果は、できる限り貨幣価値化し、便益として計上する」とされている(国交省[2009])。
この便益の測定は、その手法が煩瑣であること、測定するコストも必要なこと、また、概念そのものが難しいことから、一般的に普及していない現状にある。本来であれば、自治体が行う多額の出費を要する公共投資については、費用便益分析によって、便益を計測し、費用との対比を考えるべきである。この便益こそが、公共施設が持つ「資産」性の理由であり、公共部門が莫大な投資を行う正当性を説明する根拠となるからである。
「資産としての便益」の測定が難しければ、少なくとも費用側については、施設マネジメントの進展によって、かなり正確に計測できるので、以下に、政策コストの視点から「資産」が持つ、その「負債」性を検討することにする。

※次回は、本記事の続きとして、「負債」になる可能性がある「資産」ついて記載します。

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