コラム

公共施設マネジメントコラム⑨「世代間の横串」

2016.09.07

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー 池澤 龍三

リオオリンピックから次は東京オリンピックへ、という流れの中で4年後を思いつつこのコラムを書いている。前号コラムの後半において「老いては子に従え」論を展開したが、今号ではそうした発想に至った私の痛くも愉快な実体験についてお話したいと思う。

最初に申し上げておくが、私は先輩世代(いわゆる団塊の世代の皆様)が憎くて言っているわけではない。逆に先輩世代から後輩世代(いわゆるミレニアム世代の若者)に、賢い知恵を授けてほしいと願っているのである。今後いつかは人口も増えるし、経済も活性化して、元の(元?とはいったいいつの時点のことかが定かでないところがミソであるが)日本に戻ることを追い求め続けていて良いものかどうかを、先輩の知恵としてハッキリ言ってほしいのである。

私は3年前の現役の公務員時代、ある地区の小学校の耐震化工事に当たって、近接する2つの小学校(直線距離にして約700m)の統廃合案を一つの案として保護者の方々や地域住民の方々に説明する直接の担当者であった。説明会は4日間連続で行われ、毎日、約100名の方々が参加下さった。結論的には、両校は統合することはなく、それぞれの学校が存続し、耐震改修・改築工事等が実施される経過をたどることとなった。

その地元説明会のやりとりの中で、私が経験した出来事は以下の通りである。

当時、会場の雰囲気は、まさに男性の先輩世代層が大勢を占め、統廃合は決して許さないといった物々しい感じであった。

そうした重苦しい話し合いが進む中、ある若い現役の男性保護者が勇気を絞って立ち上がり、以下のような発言をしたのである。

「先程から聞いていると、市が統廃合の計画を一つの案として出したとたんに、地域の方々は目の色を変え、“子どもは地域の宝だ”とか、“学校は地域コミュニティの核だ”とおっしゃるが、果たしてこの会場に来られた方々の何人の方が、今も変わらず普段から学校の奉仕活動や運動会等にご参加していただいているのでしょうか?」と発言されたのである。

まさに、その直球の表現に私はハッとして涙が出そうになった。私は職員なのでこの場の説明を何とかこなせば市役所に帰れる立場にあるが、その若い男性保護者はそうは行かない。ずっと地域の方々から○○さんと言われ続けるのである。それでも、はっきり言いたいことを言っていただいたこの真の勇気に心から頭が下がる思いであった。

この一言で会場の雰囲気は一気に変わり、何となく反論することにより気まずい空気感が漂うことを避けようとしていた方々に活気のようなものが生まれたように思う。

この時、私は気づいた。私達がつくった学校を残せという先輩世代の思いも、実際の今の少子化が進んだ学校における教育環境をどうにかしたいと願う現役世代の思いも、どちらが正しいと決めつけることはできないのだろうと。大切なのは、どちらの言い分が正しいかではなく、こうしてお互いの世代が意見をしっかりぶつけあうこと自体が大切なのではないだろうかと。とかく、説明会といえば、説明する側の地方公共団体の職員と、説明を受ける側の住民という、いかにも二極の対立構図が生まれがちだが、決してこうした対立構図では建設的でポジティブなアイデアは生まれて来ないのだろうと。

いま全国の地方公共団体においてワークショップなる住民合意手法がもてはやされている。がしかし、ワークショップとは、お互いが文句・不平・愚痴を言い合う場ではないということをしっかり最初に合意して取り組んでいる地方公共団体がどれだけいるであろうか。相手の話をしっかり最後まで聞くことは最低限のルールである。この原理原則を徹底させなければ日本のワークショップはいつまで経っても陳情行政の延長となってしまい、進化はないだろうと感じるのである。

公共施設マネジメントにおいて目指す最適化とは、個別最適化ではなく全体の最適化であり、そのためには組織や仕事の進め方としての横串化が必要であり、その横串化が推進されることによって、財務・品質・供給の三面においてバランスの良い最適化が図られるとされている。

この組織の横串化については、私はマスメディアや巷が言うほど、お役所は縦割りばかりで生きているのではなく、少なくとも今でも他の民間企業と同等程度の横串化は進んでいると考えている。それは、一般社会において漠然とした雰囲気のように認識されているほど現在の地方公共団体の業務は単純ではなく、他の部署と連携して行わなければ執行できない業務に溢れているからである。もう昭和時代の「お役所」ではないのである。非横串化が公共施設マネジメントのネックという論理はもはや当てはまらないように私は思う。

では今後、公共施設マネジメントを推進するうえで一番のネックになるのは何かと言えば、まさに今回触れた「世代間の横串化」ではないだろうか。

今後、団塊の世代の皆様がいよいよ75歳を迎える2022年~2025年頃までに、そして次回の東京オリンピックが開催された後2~5年後までに、この大きな公共資産の世代間の引き継ぎ作業が行えているかが重要な課題だと私は考えている。その意味からもこれからの10年が大変大きな節目、カギとなるのではないだろうか。

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