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公共政策&行政改革コラム⑦ 赤字運営の公営施設の抜本的改革 〜廃止まで検討された市民病院事業と競輪事業の改革プロセスから(前編)

ジャパンシステム株式会社 公共政策・行政改革ディレクター 山中 光茂

私が市長に就任したときに目立ったかたちで、赤字運営をしている公的セクターが2つありました。1つが市民のいのちを守るべき政策医療機関である市民病院事業であり、もう1つは、本来ならば財政への繰り入れに貢献すべき公営ギャンブルである競輪事業でした。

両方の施設における共通する最も大きな問題は、「多くの市民からの信頼の欠如」というところでした。

まず、市民病院においては、松阪市には市民病院を含めた3つの二次医療を担当できる病院があり、大きな赤字を背負っている民間病院が本当にいるのかという議論、医療従事者を始めとした職員の接遇や雰囲気の悪さへの批判などが重なるなかで廃止論まで出ておりました。競輪事業においては、本来黒字を生み出して税金の変わりに市政運営の財源に資する目的で創られたものであるにも関わらず、過去の貯金を食いつぶし、単なる「ギャンブル場」になってしまったのでは必要ないのではないか、という議論が生まれていました。

ともに改革の第一歩として行ったことは、「現状を市民と確認しあう」という当たり前のことでした。市民病院においても、競輪事業においても、担当部局に『将来ビジョン』や『財政計画』がまったくなく、それぞれの年における現場の状況にあわせるかたちでの運営しかされていないという現実がありました。それにも関わらず、市民に対してはその現実が知らされることはなく、議会においても十分な議論がされないままに予算が承認され続けていました。まず、その「劣悪な財政環境」と「これからのビジョン」を市民に理解してもらったうえで、これからの展開を考えることが重要という視点に立って改革をスタートいたしました。

市民病院の1つの転機となったのは、財政の大幅な赤字が続く市民病院に対して5億円のCT導入ということでした。私が就任したときに、いったんこのCTの契約を白紙に戻して再検討しようという方針を出したらすぐに、運営者側から大きな反発が入りました。「今、このCTを購入するということを前提として医師が来てもらえることになっているんです。CT購入しなかったら来てもらえないかもしれないんですよ。医師が一人きたら約1億円利益がでるんですから、市長、分かってますか?無責任すぎます!」とのことでした。

私が確認したかったのは2点でした。1つは、CTを購入することと医師が1名増えることによる病院経営への影響を数値化により明確にすること、2つめはCTの価格差による性能の比較とその患者に対する効果を明確にすることでした。それを、市民公開の場で専門家を交えて議論をすることを新しいCT購入の大前提にさせていただくことにしました。

私が驚いたのは、CTを購入することによる病院のビジョンや経営への影響について、当初は、病院のどの部局も何の考察もされてなかったということでした。そして、医師を一人採用することを当時の病院として最大の命題としているにも関わらず、その費用対効果やそのことによる政策医療機関としての病院のあり方について全く整理がされていなかったのです。

「市民病院のビジョンとCT購入を考える意見聴取会」を市役所庁舎で行うと、300人を超える市民が集まって多くの意見をいただくことができました。市民病院のあり方に多くの市民が関心を持っていただき、意見をいただくことも重要でしたが、何より意義深かったのがそれまで「閉鎖的な政策決定」がされていた市民病院が「市民の批判に耐えられるビジョン」を創ろうと汗を流したことでした。

CTの性能とその効果、そして医師確保による病院にとってのメリットを何パターンかに分けてシミュレーションし、大学病院の放射線の専門家、市民病院の院長はじめとした幹部が出席をして市民とともに議論をしました。結果として、2億円強のCTを入札のうえで購入することを決定したのですが、そのプロセスのなかで市民に対して、その意義や病院としての方向性をきっちりと示すことができたのです。

その後も、市民病院の労働組合や看護師の方々から「給料アップ」についての要望が厳しくでてきたなかでも同様の方法をとりました。一度、給料アップを明確に断りました。そのうえで、「給料アップ」をすることによる人材確保策、それに伴う病院のビジョンへの影響を明確にすることを条件に「人事評価に基づく給料アップ」を承認しました。

約80億に及ぶ累積赤字の病院であるとともに、市民からの信頼度も失われているという現状において、働いている職員の待遇改善を漫然とするわけにはいきません。人材確保にきっちりとつなげるためのプロセスの一環としての「人事評価制度」と「給料アップ」を戦略的に結びつけ、そのことも市民に周知をするなかで進めていくことができました。

結果として、20年近く続いていた赤字企業の市民病院が約3億円の黒字を生み出すまでにはそれ以外にも様々なプロセスを経てきましたが、基本にあったのは『市民への説明責任』を果たせるだけの病院経営のビジョンを明確化していくということでした。ともすれば、経営者は「現場の常識」に流されかねません。現場にとっての「当たり前」が市民の税金を用いる経営にとって、またはそれを利用する患者にとって「当たり前のプラス」に働くわけではありません。

行政が民間感覚でのサービス提供の向上と経営の健全化に向けて進めていくためには、必ず「市民」というファクターを通しながら、きめ細かい「戦略」に基づくプロセスを創っていかねばならないといえます。後編においては、競輪事業の民営化へのプロセスを例にだして、公営施設の抜本的改革について論を進めたいと思います。

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