コラム

木も見て森も見たい(8)~公共資本ストックと地価に関係はあるか

2020.11.30

前回からの続き

さて、前回のコラムで予告したとおり、地方公共団体が保有されている「資本ストック」が、その地域の地価を押し上げる効果があるのかどうか、という点について、シミュレーションを行ってまいります。

データの準備を行い、早速本題に取り組みたいところですが、「いや、あの、ウチは地価とか地代を意識して公共投資を実施しておりません。」と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、「公共投資と地価との間に何らかの相関がある」という仮説を元に話を進めてまいります。

そもそも、著者が仮説に関心を持ったのは、随分と昔から、ある種の主張がなされていたからです。例として、19世紀アメリカの政治経済学者のヘンリー・ジョージ(※1)は、かなり明確に、「公共財の最適な供給量は地代の総額に等しい」(※2)と主張しています。ただ、それが本当なのか?を証明してみたいのです。

確かめる方法

「ある2つの事柄の間に、何か関係がある」というのは、どうすれば「確かにある」と言えるのか?「確からしさ」の程度は表現できるのか?「関係」と言っても、何をもって「関係」と呼ぶのか?「かなり関係がある」、「あんまり関係が無い」をどうやって区別するのか?と、考え出したらきりが無いのですが、まずは標準的なところから、つまり、「相関」を求めていくことに致しましょう。

また、「どの程度」というのを知るためには、回帰分析を行えば、大体の傾向が解るのではないかと思いますので、確かめてみます。ここで注意が必要なのは、何らかの関係を見いだせたとしても、必ずしもそこに「因果」を見いだしたことにはならない可能性がある、という点です。非常に奥深い問題ですが、現時点ではあまりこだわらず、後々、他のツールの利用なども検討しながら、考えることに致します。

データの準備(その2)

では、改めてデータの準備を行います。まず公共部門の資本ストックについては、前回コラム(※3)でも紹介いたしましたが、財務諸表のストック情報を用います。しかしながら、時系列でのデータ蓄積が進んでいないため、些か(いささか)薹(とう)が立っておりますが、「総務省方式改訂モデル」のデータを用いる事にします。

もう一つの地価については、各地方公共団体・住宅地の平均地価(円/m²)を用いますが、これは「国土数値情報ダウンロード」サービス(※4)から入手可能です。このサービスでは時系列で結構遡れるのも有り難いです。地価には商業地やら工業地やら色々あると思うのですが、地方公共団体によっては地点(標準値)の設定が無いところも有ると思いますので、ここは遍在する住宅地の地価(毎年7月1日時点)を用います。

最後に、どこまでの時系列単位でデータを入手するかになりますが、今回は財務データの入手し易さの関係から、対象期間を2011年から2015年までとさせていただきます。今回利用する財務データは、「総務省方式改訂モデルに基づく財務書類作成要領 別表」(※5)の通りです。普通会計ベースと連結会計ベースが有りますが、各団体によって連結範囲も違うので、今回は普通会計ベースで参ります。有り難いことに、有形固定資産の部が、サービス種別ごとに分かれて表示されております。つまり、「生活インフラ、国土保全、教育、福祉、環境衛生、消防、総務」と分かれております。ここに掲載されている残高が、これまでにその団体が投資してきた結果を示します。

ここまでの過程を経て、データが揃ったと安心したところで、困った問題に気づきました。データが綺麗に揃って居ないのです。地方公共団体様によっては、ある年度だけ財務データの公表が無かったり、有形固定資産の内訳表示が無かったり、いわゆる欠損値(※6)の問題です。欠損値のある団体のデータは丸ごと分析対象から外してしまう、というのも手だと思います。

ただ、それでは1年分抜けているだけで、全部外してしまうには惜しい気がします。解決法は有ると思うのですが、今回は当該地方公共団体様の揃っている4年分データの平均値を充てることにします。4年分であれば、時系列で大きく変動する可能性は低い、という判断です。一方で、数年度単位での変動が小さいと想定するのであれば、敢えて時系列データで分析する必要が有るのか?というご指摘があるかもしれませんが…。

ここから分析に入ります。今回のデータ形式は、いわゆる「パネルデータ」と呼ばれるものです。時系列でデータを持ちつつ、同時に、要素(地方公共団体)ごとに分かれてもいます。パネルデータを使った分析では、幾つか論点が有ると思うのですが、その辺は次回で。

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 専任講師 松村 俊英

参考

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