コラム

木も見て森も見たい(7)~公共資本ストックと地価に関係はあるか

2020.11.05

データ間の「相関」

これまでのコラムでは、ある地方公共団体様がお持ちの執行伝票を、「R」や「R studio」(※1)を用いながら集約・分解し、施設に紐づける作業を行い、従来は注目される事が無かった「施設別」という新しいセグメントにコストを集約して、どのように見えるか取り組んできました。集約した後は、施設別の内訳が、どのような性質のコスト(節や細節)から構成されているのか、より分かりやすい形となるよう、留意しながら作業を進めてきました。

コスト情報の集約・分解は、ある種の会計理論に則るか、あるいは、思いのままに行うことになります。その辺の力具合は、当然ながら加工されたデータを、どのような用途に使うのか、に依存して決まってくると思います。自分なりの自由な仮説の下に、データの切り口を変形して、その態様を確認したいのか、あるいは、他者に提示して理解や納得を得る必要があるのか…。いずれにしても、作業者は、ある種の意図を持ち、その意図に応じて、探索的に目標を目指した訳です。

ここからは、これまで同様、探索的ではあるのですが、多少手法を変えて、幾つかの技法を使いながら、与えられたデータ群の中に内在する関係性などを明らかにしていく、というアプローチを試みたいと思います。単刀直入に申せば、データ間の相関です。

データとデータとの関係を何らかの形で定式化してみたい!という要望は、広範に存在するのではないでしょうか。地方公共団体においては、特に政策の立案やその評価に関わっておられる方が、市民ニーズに応えて行なった政策と、その結果の関係について、定量的に知りたいとお思いの事でしょう。本来、この種の議論は、インプットとアウトプット(アウトカム)の関係を測りたいということなので、相関よりも更に進んで「因果関係」ということになると思うのですが、それについては、今後改めてご紹介いたします。

公共投資は地価に影響を与えるか?

今回から、「公共資本ストックと地価に関係はあるか」というテーマで進めてまいります。ここでいう「公共資本ストック」とは、地方公共団体において作成されている固定資産台帳上に計上されている資産の残高です。結果は集計されて、わかりやすい形で貸借対照表や資産明細に表現されていると思います。多くの地方公共団体は、膨大な資産ストックをお持ちではないかと思いますが、何故膨大なストックを抱えているのか?それは、膨大なストックを保有しないと、求められている行政サービスが提供出来ないから、ということかと思います。道路・橋梁・上下水道のインフラ施設から始まり、ごみ処理施設・学校・市民ホール・公園・スポーツ施設・公民館に至るまで多種多様です。

これらの資産がもたらす「価値」も多種多様ではありますが、その価値をどの様に測定するか、というのは結構難しい問題です。「貸借対照表に簿価が集計されているではないか?それが資産ストックの価値であろう。」というご指摘があるかも知れません。ご指摘はごもっともかもしれませんが、貸借対照表に計上されている価値でそのまま売却出来る訳ではないので、民間企業が保有する資産の様に「経済価値」が有る、という言い方も難しい様な気がします。

そこで、公会計上の資産の定義に従い「将来にわたって行政サービスを提供する能力を有する。」という点から資本ストックの価値を眺めてみると、「提供する能力」の結果を享受する利用者側が資産価値を決めているのではないか、という別の懸念が生じてしまいます。その点、公営企業会計の対象となる資本ストックは、サービスを受益する人が応分の料金を支払う設計になっているため、その料金収入の将来にわたっての総計が資産の価値と見合っているかどうか、という点から考えられるので安心です。

データの準備

公共部門が保有する資本ストックの価値を議論する際、「有効な公共投資は、結果としてその地域の地価に反映される」という考え方があります。この考え方は、「資本化仮説」(※2)と呼ばれております。ここでは「地価と公共部門の資本ストック」に関係が有るのかどうかを調べてみます。関係を探るためには、データの準備が不可欠です。

まずは公共部門の資本ストックから。これはコラムではお馴染みの財務諸表の貸借対照表から持って参ります。ただ、ここで2つ問題があります。
1つは、「ある程度の期間にわたる関係が観察出来るか?」もう1つは、「地域によって差異は有るのかどうか?」という点です。そこで、時系列+地域的に同じ処理方法で作成された貸借対照表が必要になります。

となると、現在の「統一的な基準」による地方公会計制度の前に作成されていた「総務省方式改訂モデル」(※3)のデータが良さそうです。「統一的な基準」(※4)では、まだ、時系列の蓄積が進んでいないのと、会計処理のバラツキが大きいのではないか、という懸念がありますが、今回はこのデータを用います。改訂モデルのデータは、東洋経済新報社『地方自治体財務総覧』各年版から取得することが出来ますので、それを用いることにします。

もう一つの地価は、国土交通省「都道府県地価調査」から取得出来る「住宅地平均地価」(※5)を用いることにします。

コラムニスト
公共事業本部 ソリューションストラテジスト 松村 俊英

参考

関連コラム

カテゴリー一覧へ戻る