コラム

デジタル社会形成に向けて 第2章(7)~自治体DXの先に~

2022.07.11

訪問型行政サービス(A公園の訪問価値)の効果測定を下記フローに沿って説明してきております。(下図記載)

訪問型行政サービスにおける効果測定フロー図:訪問型行政サービスにおける効果測定フロー

前回からの続き~サンプリング調査

政策の効果を確認するため、ある行政サービスの利用状況などを調べたい、という際に行われる「サンプリング調査」についてのお話を前回のコラムで行いました。身近なサンプリング調査としては、テレビの視聴率調査が良く知られていると思います。

視聴率調査では、ある番組を観ている視聴者(世帯)全てを対象にしてヒアリング調査を行うことはできません。技術的には可能かも知れませんが、膨大なコストが掛かります。そのため、数(サンプル)を絞って調査を行うことになります。行政が実施する各種調査においても同様の制約があると思います。

ただ、今後は状況が変わって来るでしょう。例えば、窓口サービスなどが完全デジタル処理に移行すれば、利用者情報の取得がより容易になります。勿論、現在でも理論的には可能でしょうが、一番の課題はコストと手間が掛かりすぎる点です。書面で申請を受け付けて、書面で交付。その間にExcelや業務システムへの入力、更には効率化を目指すためのRPAツールと、直接のプロセス以外の間接的(転記)作業が含まれます。これでは、利用者情報の掌握を行うだけで一苦労です。全ての事柄が該当する訳ではありませんが、費用対効果(コストパフォーマンス)が重要大事です。投下するコストに見合った成果、例えば、住民便益の向上が期待されるのか?常にその辺の兼ね合いが大切になってくると思います。

諸般の制約で、サンプリング調査を行うことになったとして、次の課題は、利用者属性の取り扱いになります。対象としている政策の種類にも依るのでしょうが、利用者属性として代表的なものは、年齢や性別などでしょう。場合によっては職業や住所、年収などの情報が必要になる場合もあります。調査自体は、この辺りの情報を全て収集できるように、設計すれば宜しいと思います。

ここで、住民一人一人に「相対」で向き合わなければならない福祉のようなユニバーサルなサービス提供と異なり、サービス利用者の「平均的な像」を捉えたい場合には、そのグループ分けをどうするか?という問題に直面致します。

では、訪問型行政サービス(A公園利用サービス」の場合であればどうでしょうか?この場合ですと、細かいことは考えずに、年齢別・性別辺りになるでしょうか?本来であれば、提供元として、公園利用サービスをどのように進めたいかという「政策目的」が重要なところではあるでしょう。仮に、遠方に居住する方たちの「公園利用率を高めたい」という意図があるのなら、住所情報などでカテゴライズすることが可能になります。

グループ化して傾向をつかむ

どこの団体でも行われている「●●利用動向調査」のような報告書を拝見しますと、この手の調査結果が集計・グラフ化されて貼り付けられており、大変華やかです。それはそれで、大変ありがたいのですが、我々はもう一歩進めて、「取得された各種利用者属性情報を生かしながら、グループ化し、各グループの意思決定メカニズムを、定量的に明らかにしたい」ということがゴールになります。

何故かと申しますと、サンプルデータは、あくまでも「サンプル」のため、数に制約(※1)があります。そこで、集めたサンプルデータが持つ情報量を、できるだけ毀損しないように利用するため、いくつかのグループに分けて、グループごとの傾向を探りたいのです。ところが、サンプルはデータ数が限られており、余り細かくグループ化すると、各グループに属するデータが1、あるいは2と少量になり、「グループの平均像」を表現しない可能性が出てくる、というジレンマに陥ってしまいます。

この「グループ化」というのは、なかなか興味深いテーマではないかと思います。例えば、アメリカ政治において、古くから「先の大統領選では、どのような属性や信条を持った有権者が民主党、あるいは、共和党に投票したか?」といった事が分析されてきました。

有権者にサンプリング調査をして、幾つかの属性を調査し、それらをグループ化します。問題は、特定の支持政党を持たない「中間層(無党派層)」です。彼らを上手くグループ化し、各グループの特徴を抽出できれば、その特徴に作用する選挙戦略を立てることで、次回大統領選に勝利することができるかも知れないのです。何しろ有権者数が多いので、ある程度にグループ分けして、そのグループごとにマーケティングを行うのは、コストパフォーマンスの良いやり方でしょう。

勿論、Amazonのように、個人の購買履歴・属性情報を握っている場合は、「マス・マーケティング」などは必要無く、個別に「レコメンデーション」として、商品をお薦めして、購買意欲を煽れば良い訳です。行政の方でも、既に、「都市OS」など導入済団体では、登録ユーザが自治体のWebサイトにログイン(※2)すると、その人に特化した「お薦めメニュー」が表示される仕組みができています。

では、「どのようなグループを相手に対し、最適なサービスを提供するのか?」という問題意識の元に、データを集めて分析いたします。この時、事前に「グループは5つに分けよう」とか「A、B、Cの3属性を組み合わせて3つのグループで分析しよう」といった事が決まっていれば話が早いのですが、そのような場合は少ないのではないでしょうか?ここで困ってしまいますが、事前にイメージが明確になっていなくても、データ属性を活かしながら、適切にサンプルデータをグループ化してくれる統計的手法が存在しているのです。続きはまた次回に。
(以上)

コラムニスト
公共事業本部 ソリューションストラテジスト 松村 俊英

参考

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