JAPAN SYSTEMS Driving for NEXT NEW with Comfort and Convenience

2020(令和2)年度予算を探る(3)社会保障関係費の予算の見通し

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
明治大学公共政策大学院教授 兼村高文

急速な少子高齢化とともにわが国は福祉国家化を迎え、その社会保障関係費は毎年急速に伸びています。年々何千億円もの自然増が見込まれ、予算編成ではその取扱いが大きな焦点となっています。所管する厚生労働省(厚労省)の予算も省庁の中では最大規模で、一般会計予算は2018年度に30兆円を超え、予算規模の3分の1を社会保障関係費が占めるほどになっています。社会保障関係費の予算を年金問題も含めて見てみましょう。

「基本方針2019」の社会保障関係

社会保障関係に関しては「全世代型社会保障への改革」が注目されます。長寿国を誇りに、わが国は高齢者世代を中心に社会保障サービスを提供してきました。しかし支え手が年々縮小するなか、社会保障制度を全世代で維持せざるをえない時代が到来、基本方針2019では、当面の課題は団塊の世代が75歳以上になる2022年までに社会保障制度の基盤強化と財政の持続可能を高めるため、改革工程表にしたがい給付と負担の見直しも含めて進捗状況を検証しながら改革を推進すること、としています。また年金及び介護は必要な法改正で2019 年末までに結論を出し、医療等のその他の分野は2020年度の「基本方針2020」で給付と負担の在り方を含め社会保障の総合的かつ重点的に取り組むべき政策を取りまとめるとし、本格的には来年度の基本方針で示されるようです。
政府が掲げる‘人生100年時代’を迎えるにあたっては、生き方、働き方の多様化に対応できる持続可能な社会保障制度へと改革していく必要があるとしています。社会保障の支え手と受け手のリバランスが課題となるなかで、支え手の信頼を高めるためにも世代間・世代内のバランスに配慮した制度改革が求められ、この点が基本方針に掲げられています。

厚労省の概算要求額

来年度の要求額は32兆6,234億円(うち年金・医療等は30兆5,269億円)です。今年度予算が31兆9,641億円ですので6,593憶円(+2.1%)増です。また所管する年金特別会計の要求額は69兆9,243億円です。今年度予算が68兆5,838億円ですので1兆3,404億円(+2.0%)増です。年金・医療等にかかる経費のうち、高齢化等にともなう増加額は5,300憶円で、自然増が6千億円と見積もられていたので700億円の削減です。
 重点要求では、人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築に向けて3つの柱を立てています。主要な要求内容をみますと、①多様な就労・社会参加の促進では、高齢期を見据えたキャリア形成支援の推進に約1千7百億円、最低賃金・賃金引上げと同一労働同一賃金などによる公正な待遇の確保に約1千5百億円、②健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実では、地域医療構想・医師偏在対策・医療従事者働き方改革の推進に約1千億円、介護の受け皿整備、介護人材の確保に約8百億円、③地域包括ケアシステムの構築等では、健康寿命延伸に向けた予防・健康づくりに約1千億円、などです。いずれも世代間の給付と負担の公平を意識し社会保障の持続可能性に配慮した内容です。

2019年財政検証と年金の将来

8月末に2019年財政検証が発表されました。財政検証は、公的年金について将来世代の負担が過重となることを避け、財政の長期的な健全性を確保するために2006年から5年ごとに実施されています。検証では将来にわたって保険料水準を固定しその範囲内で給付を賄えるよう「マクロ経済スライド」を導入して試算され、6つの前提条件(経済成長と労働参加により設定)で将来見通しが示されています。
今回の検証では、現在の年金給付水準は所得代替率が61.7%で前回(2014年)より1%低下したものの、一定の経済成長と労働参加が進めば今後も50%以上は確保できることが確認されました。(図参照)。今回の前提条件は、前回より現実的な設定となっており、また今回は所得代替率61.7%を維持するための将来世代の退職年齢と年金受給開始年齢が示されています。ケースⅤを前提に現在40歳の人は67歳、20歳の人は68歳までそれぞれ就労し同時にその年齢から受給するという結果です。一定の所得代替率を維持するために、将来的には退職年齢と受給開始年齢の引上げは避けられない状況です。
財政検証からも明らかなように、年金受給年齢の引上げが現実の問題として迫っています。英国では現在の公的年金の受給開始年齢は65歳ですが、2020年までに66歳になり、2040年代には68歳まで引上げられることが2015年に法律で決められました。またこれに先立ち2011年には、65歳に定められていた法定定年年齢が廃止となり、定年年齢による解雇が禁止されました。定年制の廃止により、労働者は自由に退職時期を決められることになりました。法的には受給年齢が引上げられても雇用の機会は保障されていることになります。わが国もこうした制度改正の早急な実施の必要性を今回の財政検証は証しています。
年金の負担は、1960年代は多数で支える‘胴上げ型’でしたが2000年代に入って3人で支える‘騎馬戦型’となり、2050年代にはついに1人が支える‘肩車型’になると言われています。高齢者の支え手はどこの国よりも早く重くなります。誰もが迎える年金生活ですが、この先も持続可能な年金制度を維持するためには、より現実的な前提条件で財政検証を示すことがより重要となってきました。今回の検証では内閣府試算のベースラインケースを前提としたケースⅣ~Ⅵはより現実的な前提となっています。ただあまり悲観的な前提で試算しても将来展望が描けませんので、より現実を見据えた検証が望まれるところです。

2019(令和元)年財政検証結果のポイント(抄)

資料:2019年8月27日、社会保障審議会年金部会資料。

関連コラム

Adobe® Reader®

PDFファイルの閲覧には、Adobe® Reader®が必要です。

Adobe® Reader®のダウンロード

お問い合わせ