コラム

デジタル社会形成に向けて(6)~自治体DXの先に~

2021.11.01

前回からの続き~可視化とは「貨幣化」のこと

前回までのコラムにおいて、需要側、すなわち、サービスを受ける住民が必然的に負担しなければならないコストを「窓口サービスのDX化」を事例に可視化しました。さて、「可視化」というのは、貨幣的に表現するという点が最も重要だと考えます。例えば、デジタル化を検討する理由や達成目標として「住民の利便性向上」、「人に優しいDX化」と言ったある種のスローガンが散りばめられる事が多いように見受けられます。

では、その実態は何なのか?趣味の集まりで標語を作るのであれば、特段気にする必要は無いでしょう。しかし、公金を投入して行われる行政サービスについては、曖昧で抽象的な言葉なでは無く、サービスの効果や「コストパフォーマンス」を可能な限り、投入したモノと同じ単位(すなわち、日本円)で示していただけないかと思うのです。もちろん、「公的支出は、貨幣的な効果測定に馴染まないモノが多いのだ」、というご批判もあるでしょう。しかし、そういった支出が多ければ多いほど、公的支出の正当性が揺らぎかねない気がします。

需要側のコスト可視化(効果測定)は、以前から「事務事業評価」が行われており、「公会計」などもその系譜に位置づけられます。ただ、前者については、貨幣表現の視点が欠落していました。後者については、行政コスト計算書などを見ても、単なる歳出額のセグメント別集計の域を出ていないと思われます。そこで、近年、期待の嫡流として「EBPM(※1)」が注目されていますが、これは、公会計では可視化出来なかった「リターン」の部分を積極的に貨幣表現しようという試みだと、著者は考えております。

一方、供給側のコスト可視化(効果測定)は、以前から「業務分析」、「活動基準原価計算(※2)」など、多くの取り組みや提案がなされております。これらの多くは虚心坦懐に、現行の業務フローを幾つかの塊(活動)に整理した上で、それらを順番に繋げて、フローチャートに写し取る方法が多いと思います。活動基準原価計算の場合は、それほど活動を細分化しませんが、まずは現状を把握してから改善案を検討する、という手順になっていると思います。

詳細な活動分析は不要

ここで再び「窓口業務のDX化」についての話に戻します。前回のコラムにおいて、従来の窓口申請業務(事前)を、手元のスマートフォンで全て完結させるフロー(事後)に置き換えた場合の変化について、表などで紹介いたしましたが、既に具体的な「デジタル窓口」の改善案(イメージ)はあります。ただし、スマートフォンという小さなデバイスに、仮想的な行政窓口を移し替えるという営為(えいい)(※3)の故に、UI(ユーザーインターフェース)(※4)や、UX(ユーザーエクスペリエンス)(※5)にも制約を受ける事になります。

この場合の制約とは、共通化と言っても良いでしょう。利用者に、煩瑣(はんさ)な手続をスマートフォンでお願いする事はできず、多々ある申請業務も同じ様なUI&UXに落とし込む事が必要になる。すなわち、先にスマートフォンの画面イメージ(それが新たな役所の窓口です!)を具体化させ、その実現を阻む活動を「逆引き」で洗い出していく、という手順になると思います。スマートフォンで申請業務を完結させる事を邪魔する活動は何か?本人確認業務?相談業務?審査業務?多くの問題があるかと思いますが、技術的な問題で引っ掛かるケースは少ないと思いますし、スマートフォンの進化ぶりを見るにつけ、早晩、技術的な制約は取り払われる、という前提で考えておいた方が良いでしょう。

そうなると、邪魔になるのは既存の法律や条令、慣習や因習だったりするかも知れません。これらは、成立時の時代的制約を受けており、今日的な視点や技術的な要請から、改変や取り払われるべきものも多いと思います。様々な旧弊からどのように脱却できるかどうかが、関係各位の腕の見せ所となりましょう。迷った時は、「住民便益の増大を、制度疲労が邪魔していないか?」という視座を思い出していただきたいのです。

ということで、供給側のコスト構造ですが、今回は出口のイメージが明確なため、詳細な活動調査などは必要ない、というのが結論です。標準化されたUI&UXへの落とし込み作業を通じて、ボトルネックが明らかになり、それを回避するための方策を考えざるを得なくなるため、早急に、窓口業務をスマートフォン窓口に移し替えるための「画面設計作業=移築作業」を進めていくのが、最短ルートになると思います。

供給側のbefore / after

それでは、供給側のコストを可視化して、窓口業務のDX化の効果予測を行います。

サービス業務コストのbefore/after(供給側) width=表 サービス業務コストのbefore/after(供給側)

活動分類ですが、簡便に、例えば、1つの申請業務について、5〜8つの業務の塊(活動)に整理してみるのは如何でしょうか。上記の表では、何らかの許可証を発行するためのサービス業務を、「事前相談」「受付・本人確認」「台帳記入」「協議」「審査」「発行」と、6つの業務(活動)に分けてあります。

現状では、担当者が3名関わっています。役職が異なるため、それぞれ年収も違うと仮定します。また、当該業務への関与度合いも、当然違うので、各担当者の関与度合いを「投入割合」として、比率で入れてあります。1年間を通して、大体どれ位関与するか、という目分量です。これらの投入割合を各コスト(人件費等)に乗じると、「実質コスト」が計算されます。この例では、人件費+物件費で10,600千円掛かっている事になります。

続けて、先に整理した6つの活動に対して、各担当者がそれぞれのどのように時間を振り向けているかを整理します。表上段右側になりますが、担当者3の方は、事前相談に50%、受付・本人確認に30%、台帳記入に20%の割合で、時間を使っていると仮定します。この時間割合も目の子(※6)で大丈夫でしょう。各担当者の時間割合合計が100%になるように設定します。
これら一連の業務が「デジタル申請」の導入でどう変わるか?まず、表右側の水色網掛け部分を見ていただくと、担当者2・3の投入時間割合が「受付・本人確認」活動と、台帳記入「活動」において、ゼロになっております。Web上での作業になりますので、この辺りの活動にはデジタル化の恩恵を強く受けることになります。また、物件費も紙を印刷しなくなるため、関連経費が不要になります。

その結果、担当者2・3の従事割合がそれぞれ50%に低減し、物件費も10%(90%減)になりました。これら活動コストが減った結果が、投入割合の減少に反映されます。すなわち、左側緑色網掛け部分で、担当者2・3と物件費の投入割合が減る事に繋がります。

担当者2の投入割合はbefore: 50%→after:25%、担当者3の投入割合はbefore: 70%→after:35%、物件はbefore: 50%→after:5%、とそれぞれ低減しました。その結果、サービスに使われるコスト総額は、6,300千円に下がります。窓口業務のDX化に伴い生じた余裕分で他の業務に従事してもらうか、同じアウトプットであれば、より少ない人数で業務をこなせるようになる訳です。
(つづく・・・)

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 兼任講師 松村 俊英

参考

  • ※1内閣府におけるEBPMへの取組
  • ※2間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に配賦することによって、生産や販売活動などのコストを正確に把握するための計算手法。
  • ※3人が意識的におこなうこと。
  • ※4人とモノ(主にデバイス)をつなぐ窓口。
  • ※5人がモノやサービスに触れて得られる体験や経験。
  • ※6ざっと目で見ただけで判断すること。

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