コラム

デジタル社会形成に向けて(5)~自治体DXの先に~

2021.10.04

前回からの続き~活動コストについて

前回までのコラムにおいて、行政サービスのDX化についての視点から、まずは需要者側の利便性向上を考えるべきではないか?というお話をしてきました。その具体的な例として、サービス需要者(つまり住民です)が役所の窓口に出向き(訪問)、申請用紙に必要事項を記入し、役所内部での様々なプロセスを経て、アウトプットを受け取り(交付)、帰る。という申請に係る窓口サービスをイメージして頂くのが良いでしょう。

需要サイドのbefore / after

それでは、住民側が負担するコストが、窓口サービスのDX化、例えば、手元のスマートフォンで全て完結してしまうようなフローになった場合、事前/事後でどの様な変化を見せるかについて、単純な事例で検討したいと思います。

窓口サービスコストのbefore / after表 窓口サービスコストのbefore / after

上の表をご覧下さい。表の上半分、6行目までが現状のコスト発生具合になります。表の見方ですが、まず、サービスの内容としては、「道路占用許可申請」などの窓口サービスを想定して下さい。現状では、何度か役所の窓口に足を運ばないとサービスが完結しない、という前提で進めます。

続いて、平均的なサービス利用者を想定します。仮に年収3百万円と致しましょう。以下、全て「平均的」に考えます。実際には、サービスの内容によって、利用者の平均年収などもバラツキがあると思うのですが、詳細化(※1)の話は、別の議論とさせて下さい。

念の為に付言しておきますと、これからの話は、全て具体的な実際の利用者のデータを使って計算することが可能です。DX化によって紙を使わない、転記を行わないといったフローへの転換に成功すれば、この様な計算自体のコストも劇的に下がります。これがデジタル化の良いところですね。計算そのものは煩瑣(はんさ)(※2)にはなりますが、システム的に処理すれば一瞬です。もちろん、個人情報(例:年収・住所情報)を利用する事になるので、利用可否についての議論が別途発生すると思います。

ただ、計算に必要となるデータは既に役所(行政)側に、かつ、利用可能な状態である訳ですので、後は役所(行政)側が、詳細な計算をしてみたいというインセンティブあるいは、モチベーションに依存する話になるかと思います。

話を戻しますと、実際に役所まで行かないとサービスが受けられないため、移動が必要になります。その際自宅から役所まで片道2km掛かり、役所までの移動手段として自家用車(ガソリン車)を用いる事とします。ここで、1kmあたりの移動に5分掛かるとします。そうすると、役所までの移動時間は片道10分、往復で20分になります。役所に到着して、申請用紙の記入に5分掛かり、窓口の職員とのやり取りや待ち時間などで1回訪問あたり、平均15分掛かるとします。この他に相談事などがあれば、更に時間が掛かるのかもしれません。

移動に掛かる費用には自家用車のガソリン代も掛かりますので、それも考慮に入れましょう。燃費1ℓ15kmの乗用車を利用し、ガソリン代は150円/ℓと考えると、1kmあたりのガソリン代は10円ということになります。他に、自家用車の償却費は計算に入れないのか?環境負荷への配慮は?など、面白そうな論点が沢山出てくると思うのですが、捨象(しゃしょう)(※3)して、先に進めます。

機会費用を考える

次に、平均的利用者の機会費用、すなわち、サービスを受けるために拘束される時間を「金額換算」します。まず、年間労働日数を250日として、一日あたりの稼ぎを12千円とします。(3百万円/250日)実質年俸の人が多いはずなので、365日で除すれば?という意見もあるかもしれませんが、平均的に一日8時間働くとした場合、1時間あたりの稼ぎは1,500円(12千円/8時間)になります。これを1分あたりに換算すると25円(1,500円/60分)になります。

これでようやく計算が出来ます。ここまでの仮定で、1回あたり役所に行くと掛かる時間の合計は、移動に往復20分、書類相手に費やす時間が5分、その他15分で、計40分と見積もりました。平均的利用者1分の価値は25円なので、40分の拘束時間は1,000円(25円×40分)の価値であると計算出来ます。あと、ガソリン代が1回40円掛かってましたので、それも加えると、1,040円になります。

さらに、この様な訪問が4回繰り返されて、ようやくサービスが完結すると仮定した場合、4,160円(1,040円×4回)のコストを、利用者側が払っていることになります。更に、このサービスが年間300件利用されているとした場合、年間で住民が負担するコストは1,248,000円(4,160円×300件)にもなります。これは、かなりの金額(コスト)では無いでしょうか?

以上が、現状のフローで発生する利用者側の負担コストになります。これを新しいフロー、表中に「事後」とある箇所に、DX化によって移行したい訳です。この例では、移行後、役所への訪問回数が4回から1回に激減し、一回あたりの拘束時間も減ることになってますので、自ずと住民が年間に負担するコストは大きく減ることになります。
(つづく・・・)

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 兼任講師 松村 俊英

参考

  • ※1抽象的なものごとを、より詳細な形式に変換すること。
  • ※2細々(こまごま)としてわずらわしいこと。
  • ※3他の要素・側面・性質を度外視すること。

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