コラム

デジタル社会形成に向けて(3)~自治体DXの先に~

2021.07.28

活動の粒度

ABC(活動基準原価計算)が流行った2000年代初頭、活動の括り方・粒度をどうするか?という議論が盛んだったと思います。例えば、私も下記の様な手法で活動を拾い出した(出そうとした)経験があります。

・仕事をしている人をビデオで撮影して、一日の作業を分析する。
・インタビューアーが「あなたは毎日どんな事をしていますか?」と聞きながら、個々人の日常を辞書化していく。
・毎日15分刻みで「日報」を付けて貰う。
・仕事で使うPC等の接続状況から業務内容を自動的に取得する。
・日々の活動を「8つ」に限定して、その中から選んで貰う。

結構大騒ぎになりそうなものから、比較的簡単そうなものまで並べてみました。こうして並べてみて改めて感じるのは、当時の「改善」に対する強い意欲の表れと申しますか、意思の様なものを感じます。そもそもABCは、日本の巨大自動車メーカーが得意とする「カイゼン」がアメリカの企業に輸入されたものが、間接業務やサービス業向けに「カイゼン」されて、日本に逆輸入されたもの。と何処かで読みました。日本経済に勢いのあった時代の残り香を漂わせるノスタルジックな感じも致します。

活動の粒度は、結局のところ、「何をやりたいのか?」という目的に依存して決まると思います。例えば、先にご紹介した「接続料金(※1)」や「託送料金(※2)」の算定にABCが使われたのは、電気料金を構成するネットワーク・インフラの利用料金を「ざっくりと計算しました」という訳にはいかないからです。そのため、料金を構成する活動群を明確にし、配賦基準の精緻化、納得性の向上という観点からABCが要請されたのです。

他方で、民間企業における間接経費の部門割り当ての様な場合はどうでしょうか?例えば、経理部門の経費(間接経費)を部門割り当てする場合、総務部門の活動を具に(つぶさに)調べて、活動を利用している部門にその活動コストを負担させる、という方法が一番納得性を得られるかも知れません。しかし、経理部門のメイン業務は伝票処理であるため、「伝票処理」という活動に着目し、その活動の多寡、つまり、伝票処理件数によって総務部門の全費用を割り当てる方法で、各部門の納得性が得られるならば、それでも良いかも知れません。活動調査をしなくても済みますし、均等割で経費を割り当てられるよりも、各事業部門の理解も得やすいこと。またコストを計測するにはコストが掛かる…という事実も無視できません。

電力託送事業におけるABC

後々の議論で役に立つかも知れませんので、公共財(民間企業の供給ではありますが)に対して、本格的にABCが導入された事例として、電力託送料金制度(※3)の中でABCを振り返ることにします。

だいぶ昔の話になりますが、2000年3月から電力大口需要家(特別高圧2万V以上)に対しての電力小売が自由化(※4)されました。その際、送電網は、その所有者であると同時に既存事業者である電力会社のみならず、電力会社の送電網を利用して電力小売事業を開始しようとする新規参入事業者の両者にとって、公平かつ適正水準での使用料(電力託送料金)の下で開放されなければならない、とされました。そのためには、送電網を所有している電力会社がどのような費用配分を行うかを適切に判断することが求められる訳です。そこで、電力会社がABCを用いて送電網に係るコストを抽出しながら、電力託送料金として適正水準のコストを特定することになりました。

大まかな計算手順としては、

①従来の料金算定プロセスを出発点として、総括原価として積み上げた全ての費用を8つの部門(水力発電、火力発電、原子力発電等、送電、変電、配電、販売、一般管理)に整理する。
②8部門のうち、一般管理部門費用(=一般管理費)を残りの7部門に再配分する。
③再配分した後に、託送に関するコストを抽出する。
このうち、ABCが活用されたのは、②と③になります。

上記②を計算するに際して、以下の諸点に留意することが要請されました。

・直課比率を増やすこと。直課というのは、活動を通さなくても、資源レベルで容易に、最終サービスに割り当てられるような資源(費目)のことです。当たり前ですが、この部分の比率が大きいほど、最終的に集計されたコストの透明性が高まります。もっとも、元になる費目水準が妥当かどうかについては、何も判断出来ませんが…。
・直課が難しい費目については、その費用を消費している思われる部門に対して、活動基準によって配分する。ここでABCが活躍します。
・最後に、そのような妥当な割当基準が見つからない残余費用については、何らかの代理的な基準(配賦基準)によって配賦する。

この例から、もう一つ重要な論点として浮上するのが、資源の取り扱いです。資源といっても、ABCの話ですから、計算に参入するコスト費目をどうするか、という話になります。
自治体においては、この辺の整理は最初から良く出来ているのかも知れません。会計・款・項・目・事業…、と最初からセグメント化されて予算が調製されています。

仮に事業コストを見たいのであれば、そこにはコストが節の単位で集計されている(直課されている)訳です。従って、事業の中でも直接住民に向けられていない事業、人件費の「入れ物」になっている事業、すなわち「間接的な」事業。あるいは、現金主義の世界では登場しない発生主義費目などを、ABCなどを使って、上手く最終的なサービスコストに紐付けられるか、という所が論点になろうかと思います。

自治体DXの効果を測定するためには、この辺の議論が必要だと思うのですが、ちょっと話が分かりにくくなってしまったので、次回もう少し整理します。

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 専任講師 松村 俊英

参考

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