コラム

デジタル社会形成に向けて(1)~自治体DXの先に~

2021.05.31

はじめに

今回よりタイトルを一新し、最近毎日どこかで耳にする、自治体DX関連のテーマを中心にお話を進めて参りたいと考えております。

前回までのコラムの中で、公開されている地方公共団体の公会計データ(バランスシートのデータ)を用いて、データ分析のさわりとも言うべきか、最近巷で注目されているEBPM(Evidence – Based Policy Making)にも目配せしつつ、書かせていただきました。

さて、今回からのタイトルにもあるDX(Digital Transformation)。そもそも、なぜTransformationがXになるのか気になっていたのですが、この手の話は巷間溢れかえっております。(※1)些か(いささか)総花的で、現実味を感じさせないバラ色の未来が語られる一方、昭和な香りのする「OA化」(※2)と何が違うのか、その辺も判然とせず、遠巻きに眺めておられる方もいらっしゃるかも知れません。

そんな混沌とした中に、新たな夾雑物(きょうざつぶつ)(※3)を紛れ込ませるのも剣呑ですので、ここでは少々切り口を変えまして、EBPMを意識しつつ、デジタル化の具体的な御利益について考えてみたいと思っております。

効果の測定をどうするか?

まず自治体DXの定義ですが、国の公開文書で「これだ!」と端的に明示されているものは無く、総務省サイトの「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会(※4)」に掲載されているドキュメント類を拝見しますと、これまた、矢鱈と色んな事が書かれており、ますます困ります。

ただ、「個別のDXの取り組み」として列記してある項目を見ますと、「マイナンバーカードの普及」、「行政手続きのオンライン化」、「AI・RPAの利用推進」、「テレワークの推進」、「BPRの取組みの徹底」、「オープンデータの推進」…、と並んでおります。なるほど、一つ一つは素晴らしく、すぐにでも取り組んでいただきたい事ばかりです。

ただ、実際に自治体の現場で上記の取り組みを担当される職員の皆様にとっては、一体どこから手を付けるべきか、どの取り組みがどれ程の効果があるのか…?と当惑される向きもおありでしょう。正にそのとおりで、取り組みの「効果」がよく分からないのです。やり易いものから手を付けるという戦術もあるとは思うのですが、効果の大きい取り組みが分かれば、それさえやり切ってしまえば、後は、徐々に着手しても良いわけです。とはいえ、DXの効果について定量的に述べられている資料・文献等をインターネット上で探そうとしても、見当たらないのが現状です。

効果がはっきりしないのは困る

原則論で恐縮ですが、凡そ、公的な資金を投入して行われる事業であるならば、その効果がハッキリしないのは困ります。「いや、この事業は要るでしょ」、「みんな喜ぶよ」ということで、基本構想、基本計画などに基づきつつも、その優先順位は曖昧です。人的・財政的な余裕がある時であれば別ですが、実情としては人的・財政的な余裕が無いため、一番効果の大きいものから手を付けたいのが人情です。

では、その「効果」とは何か?ここで、伝統的な「事務事業評価」の世界を想起頂くと、ちょっと苦しくなります。最近ではKPI(Key Performance Indicators ※5)に代表される主観的な指標分析が主流ですので、それも良いのですが、やはり一番分かりやすい「貨幣(金額)換算」で効果を算出したいのです。

しかし、少なくない金額を使う事業で、その効果を金額で示すことが出来ないというのは、些か奇妙です。確かに、効果を金額換算する事が困難な分野も多々ありますが、あっさりと「金額換算する事は出来ない」と断じてしまっては身も蓋もありません。そこで、先述した個別のDXの取り組みの一つである「行政手続きのオンライン化」を対象として、貨幣的な効果が計算出来るか試みてみたいと思います。

さて、金銭に関する話は、会計の方に任せておけば良いでしょうか?確かに公会計の領域において、費用計算を行うことは出来ます。ですが、公共財を扱う公会計では収益の概念が明確ではないため、成果測定(損益計算)は出来ません。そこで、今回は、費用計算は会計の力を借りつつ、効果を貨幣的に表現する部分は、経済学の「便益」の概念(と言っても難しいものではありません)を借りながら、アプローチしたいと思います。

効果測定の開始~「行政手続きのオンライン化」

それでは「行政手続きのオンライン化」を題材にして貨幣的に効果測定を始めます。まず始めに取り組むのは費用の部分からです。これは特段議論が無い様に思われます。まず、直接的に事業費がどれほど投入されるか?が分かれば良いことになります。オンライン化の為には、何らかのシステム投資が必要になるでしょう。ただ、それ以外にもある手続き(サービス)を完了させる為には、人手が介在しているはずです。要するに人件費です。DXを実現するためには、この手間をどれ位減らせるかが重要になるでしょう。

あるサービスに掛かる人件費を明朗に計算するには、様々な手法があります。その一つとして、以前、公共分野においてちょっぴり流行ったことがある、ABC(Activity Based Costing ※6)という計算手法があります。次回は、その辺から。
(つづく…)

コラムニスト
淑徳大学コミュニティ政策学部 専任講師 松村 俊英

参考

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