コラム

都市計画と公共施設マネジメント⑤ 居住誘導の性格と制度運用の未来

2017.09.28

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
首都大学東京助教 讃岐 亮

前回(都市計画と公共施設マネジメント④ 居住誘導区域の設定について)に引き続き、本稿では立地適正化計画における「居住誘導区域」に焦点を当てて、議論を深めたい。

居住誘導区域をおさらいすると、立地適正化計画パンフレットによれば「人口減少の中にあっても一定エリアにおいて人口密度を維持することにより、生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう、居住を誘導すべき区域」と定義される。

そして、「人口が減少することが見込まれる都市においては、現在の市街化区域全域をそのまま居住誘導区域として設定するべきではない」とされ、更に「市街化調整区域内には、居住誘導区域を設定することができない」と規定されている。つまり、居住誘導区域は、これまでの線引き区域を尊重しつつ、人口減少に備えてさらに市街地を集約させる区域指定を行おう、というものである。

居住誘導区域は、最終的に立地適正化計画が目指すコンパクトシティの将来像そのものと言っても過言ではないだろう。ただし、そう言い切るためには、「市街化区域に居住誘導区域は限られる」という風に読める上記の縛りに、少しだけ解釈(改変)の余地を残したいところである。今回の話題の中心は、その「解釈の余地」についてである。

人口減少によって何が問題になるかと言えば、人口密度の低下による行政効率の悪化することである。たとえば、道路や上下水道管など、都市に張りめぐらされたネットワークインフラは、人口減少に比例して削減できるものではない。仮に空き家が発生したとしても、その空き家が面する通りの道路や水道管は、空き家ではない隣家のための、あるいは向かいの商店のために必要なのだから。市街地が拡大したのと全く逆に、都市が周縁からだんだんと縮小していくのであれば話は簡単であるが、人口減少は都市のスポンジ化とともに起こっていることに鑑みれば、やはり行政の負担が増えるばかりである。

人口密度を一定以上に保ちつつ、減少する人口に鑑みて居住エリアを集約していくのがコンパクトシティの概念であり、そのための立地適正化計画である。したがって、立地適正化計画において言及されるはずの居住誘導区域は、将来の都市像そのものと言うべきである。

都市計画法が定める都市計画区域、市街化区域もまた、将来の都市像ではあるが、その指定がなされた時代背景は、人口減少を明確な前提としていたわけではないため、「いま」から見た将来の都市像は、立地適正化計画における居住誘導区域のことであると言って問題はないだろう。

ここに、解釈(改変)の余地を残したいと述べた理由がある。すなわち、市街化区域は人口減少を前提としない時代に指定されたものであるならば、人口減少時代における最適解とは異なる可能性もあり、逆に非効率な都市を生む縛りになってしまうかもしれず、場合によっては市街化区域外の居住誘導区域設定も認める余地を残すという発想も当然生じうる、ということである。

無論、都市というのはそう簡単に形の変わるものではない。人口減少を前提としたとしても、将来の都市は既存の都市の上に成立することがほとんどであろう。稀に、田畑のまっただ中にミニ開発等の宅地開発が行われる例が散見されたが、そのような動きも将来的には減少していくものと推測できる。それを前提とすると、解釈の余地を生むメリットがないという意見は当然出て来る。

また、例外規定を前面に出すと、それに逃げてしまう例が多く発生するのでは、という懸念も当然出てくるだろう。特殊解が実現して「成功例」として脚光を浴びると、それが絶対的な解であるという誤認を与え、右へ倣えになってしまうのが行政の常であるため、大いに留意すべきことである。

あるいは、より効率的な都市の在り方が見出されたときでも、あくまで現状の規定運用で対応可能かもしれない。しかしながら、現在の立地適正化計画策定状況を見るに、将来の計画運用について深く言及している計画がほとんどないため、制度の更新や柔軟な対応が将来にわたって保証されるかどうかは相当アヤシイと思われる。

たとえば居住誘導区域の設定そのものを遅らせている自治体が2/3を超えている現状からも、ある一定期限の中では計画の実効性に関する議論は行われるだろう。ただ、実態として計画の改定についての記述はほとんど見受けられず、状況の変動に対する対応性、柔軟性について考えられた立地適正化計画もまたほとんどない状況である。

だからこそ、今活況を呈している立地適正化計画の在り方の議論の中で、あるいは計画策定の現場で「従来の縛りにとらわれない、新たな発想に基づく都市の将来像の設計」が求められると思うのである。その実現には、やはり、従来の市街化区域を尊重しつつも、場合によってはその外側に居住誘導区域が広がるかもしれないという発想への尊重もまた必要ではないか。

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