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「これからの公会計を考える」第五回:新地方公会計制度の会計モデル(その2)

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「これからの公会計を考える」第五回「新地方公会計制度の会計モデル」(その2)をお送りします。

(基準モデルの特徴)

さて、今回、基準モデルのお話です。基準モデルの特徴については、前回、総務省方式改訂モデル、および、東京都方式との異同について、主要論点を比較表としてご提示しております。つまり、作成手順という観点からのみ要約すると、基準モデルは、①資産の評価・算定については、初年度、各団体に現存する有形・無形の資産を公正価値にて評価して、開始貸借対照表にリストアップする、②毎年発生する個々の取引については、ストック・フロー情報として網羅的に把握して複式記帳し、③財務書類の作成については、元帳から誘導法的に行う、ということでありました。

他方、改訂モデルにおいては、①売却可能資産については時価評価を行い、それ以外の資産については過去の普通建設事業費の積上げにより算定し、②資産台帳や個々の複式記帳によらず、③既存決算統計情報の活用を認める、というものでありました。

これら、①資産評価、②複式簿記の採用、③決算統計の利用 という三点については、これまで何度も書いてきましたので、ここでは、基準モデルの存在を際立たせている、税収の取り扱いについて、また、財務書類としては、純資産(東京都方式では正味財産)の変動を記述するために用意された「純資産変動計算書」(東京都方式では、正味財産変動計算書)に、ついて少々述べます。

(純資産変動計算書)

そもそも、企業活動は利益の確保を目的としているので、日々の取引は「当期純利益」に集約される損益計算として体系化されております。他方で、公共団体の活動は、その目的が企業活動とは異なる(資源配分、所得再分配、経済安定化等)ので、損益計算が中心とはなりません。が、やはり、それらの動き(資源配分、所得再分配、経済安定化等)を表現する「フローの計算書」は必要であり、それが純資産変動計算書という事になります。

この計算書は、貸借対照表上にしめされる純資産(納税者の持分)について、その変動を、財源(税収、補助金等々)の調達と、財源措置としてのその「使い道」に分けて描写することです。

だか小難しい話になっておりますが、財源というのは、まあ、自由に使ってよい現金ということなります。その最たるものが税収です。あとは、他所からの移転収入(補助金など)があります。財源措置というのは、そうやって調達した財源を使う、という意味でありまして、道路の補修や庁舎建て替えの資金手当てなどの「資本的支出」に充てられたり、行政事務に伴って発生する人件費・物件費などの行政コスト、社会保障関係の扶助費、他所への補助金支出などの「経常的支出」が主な内容になります。

企業会計における損益計算書や東京都方式における行政コスト計算書においては、税収に手数料・使用料などを加えた収益と行政コストを対比する形なっていますが、基準モデルにおいては(改訂モデルもそうなのですが)、「財源を使うのは行政コストだけではないでしょ」ということで、財源と「経常的支出」「資本的支出」を対比して見せよう、というコンセプトになっております。そして、資本的な支出によって無くなってしまったかに思われた現金は、建物やその他の「資産」に形を変えて、納税者の手元に存続する訳です。現役世代が「費消」してしまった財源だけでなく、固定資産や金融資産に転化した財源も、財源の使用(財源措置)の一形式して計上して、税金等の使途を明確にしようとするものです。

そして、この固定資産等に転化した財源が「資産形成充当財源」と呼ばれております。つまり、現金としての財源は減少したが、他の形態の資産=「使用済み財源」=「資産に変化した財源」=資産形成充当財源として、増加した、と考えるのです。

この純資産変動計算書からは、世代間の受益と負担の割合を推定することができます。仮に、決算期によって将来世代と現役世代が区別されるとすれば、当年度における現役世代の受益額は、総費用から総収益を控除した純経常費用と、扶助費・補助金等の移転支出、直接資本減耗や固定資産の評価損・売却損、貸付金や出資金の償却額等々になります。これらは、当然、当期の現役世代の拠出した税収でまかなわなければならない。

次に、基準モデルに特徴的な点として、大方の改訂モデル作成団体の皆さんには馴染みのない、財務書類の作成方法について整理しておきましょう。

まずは、必要データ・資料の収集です。大きく3系統のデータが必要になります。執行データ(歳入・歳出データ)、資産・負債等残高に関するデータ、財源に関するデータ、です。

残高に関するデータについては、各種資産の簿価・未収入金残高・未払金残高・公債残高など、開始貸借対照表作成に必要なストック情報になります。また、期末に決算を行うために、そのような資産・負債がどのように変化したかを表す情報も必要となります。これらは決算整理に関するデータと呼ばれ、減価償却明細(固定資産台帳)・退職給付引当金明細・不納欠損引当金(貸倒引当金)明細などが主なものになります。

固定資産や長期金融資産の当年度取得分については、財源の内訳がわかる資料が必要となります。基準モデルでは、純資産変動計算書を作成する際に、当年度以降取得の資産については、資産形成にどのような財源を使ったかを、仕訳として記録しなければならない、とされています。

このような資料が作成されていなければ、決算統計を参考に取得財源を想定するか、税収と公債収入等の割合で按分計算する等、何らかの方法で財源内訳を設定する作業が必要になります。また、過年度取得の固定資産や長期金融資産の財源内訳については、把握にかなりの困難が予想されるため、「開始時未分析残高」として、ひとくくりにして処理する事とされています。ただ、この「財源仕訳」の取り扱いについては、現在、総務省で議論されている「統一基準」において、簡略化の方向で議論が進んでいるようです。

(資産の把握について)

開始貸借対照表に記載される資産の評価については、総務省から詳しいマニュアルが提示されております。基準モデルでは、原則として団体が持つ全ての財産について、施設別に金額情報を持たなければなりません。各々の資産について複数の評価方法が定められており、選択可能となっています。評価の結果出された金額情報については、施設の情報と併せて「固定資産台帳」に整理することとされています。

(変換パターンの定義)

基準モデルは複式簿記の考え方の採用を前提としているため、何とかして、仕訳データを作成する必要があります。やり方としては、一件一件の執行データをみて、総務省から示されている仕訳例を確認しながら、仕訳を起こすという事が考えられましょう。もちろん、手でやっても出来なくはないと思うのですが、結構、面倒だと思います。

「複式簿記化」の作業については、システムを使うことで作業を軽減できます。入手した執行データに応じて変換パターンを定義し、システムにセットして、そこに入手した執行データを投入・変換作業を行うことで、単式伝票→複式伝票への変換ができます。そして、複式簿記の仕訳データができれば、そこから自動的に試算表や財務諸表を出力することが可能となります。

(決算整理仕訳と連結作業)

自動変換の方法では、現金の移動を伴わないような「非現金取引」については、全てを自動的に仕訳に変換することはできません。引当金の計上などが代表例です。これらの「決算整理仕訳」については、手で仕訳伝票を入力する必要があります。

以上の作業が終われば、とりあえず財務書類が出来上がりますが、作成が求められている財務書類は、「連結ベース」という事になっているため、一連の手順で作成した一般会計・普通会計等の財務書類に、特別会計や公益法人、一部事務組合、第三セクター等の「異なる会計基準」で作成された、各会計の財務書類を足し合わせる必要があります。これは、総務省方式改訂モデルや東京都方式でも同じです。

以上、基準モデル財務諸表の特徴について、ごくごく簡単に述べました。次回以降、総務省方式改訂モデル、東京都方式と進んで参ります。