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どのようにして自治体の働き方改革にICTを活用するか(1)『働き方改革』とICTツール導入

私は総務省地域情報化アドバイザーの高橋邦夫と申します。
今回から2回にわたって、各地の自治体で働き方改革のお手伝いをしながら感じていること、またそこから導き出せるヒントについて私の意見を述べさせていただきます。第1回は私が公務員時代に取り組んだ実践をご紹介します。

平成27年 豊島区役所新庁舎移転の取り組みの事例から

豊島区役所(低層部が区役所、高層部は分譲マンション)
「再開発の手法を用い、マンション一体型区役所に」

私は東京23区の一自治体である豊島区役所に29年間勤務しました。平成21年からは情報管理課長として、情報システムの導入と保守に関する責任者を務めました。(平成26年からはCISOも担う)

私が管理職になると同時期に豊島区役所では新庁舎の建設が現実のものとなりつつありました。私は豊島区長から「職員が机にしがみつかずに、もっと動き回り、住民と接する職場にせよ」という命を受けて、ペーパレス化を中心とした「ワークスタイルの変革」に取り組み、職員の協力もあり、庁舎移転前には決裁の電子化100%を実現しました。

無線LANネットワークによる常時接続

豊島区役所では平成27年5月の新庁舎移転の際に、庁舎のあらゆる場所で無線LANが使える環境を整え、全職員のパソコンをそれに対応させることで、庁舎のどこでもネットワークに繋がることを実現しました。そこで会議や打ち合わせはペーパレスとして、準備にかかる手間を削減するだけでなく、会議のあり方も変えて、説明よりも議論に時間を費やせる工夫もしました。

IP化による通信デバイスの統合

また電話も全てIP化して、電話線をなくすとともに、ユニファイドコミュニケーションシステムというツールを導入することで、パソコン経由の通話となり、パソコンがネットワークに繋がれば、どこでも受発信できる環境を整えました。このツールは電話の他にもチャットや在席管理、ビデオ会議や資料共有の機能を持ち合わせます。

更にはプリンターも統合して、どの機器からも出力できる環境としました。これらによって、自席でなくても働くことが可能となりました。

タブレット端末の活用とテレワーク

移転後2年を経過した執務スペース
(退社時にはクリーンデスク)

管理職にはLTE内蔵のタブレットを配備して庁内でない場所でもLTEの電波が届く場所であれば役所のネットワークに参加できる「テレワーク」を実現しました。これで区長を始めとした管理職員は訪問先や自宅でも自席と全く同様の情報を得ることや、決裁も可能となりました。

他にも様々なツールを取り入れて、住民サービスの向上や働き方の変革を実施しましたが、ここでは割愛させていただきます。

基礎自治体として初のテレワーク推進賞(優秀賞)受賞

おかげ様で豊島区の庁舎移転の取り組みは高い評価を得て、庁舎移転後から200を超える自治体の視察を受け入れて、そのノウハウを伝えてきました。しかし残念ながら、同様の実績を生み出した自治体は数少ないと感じています。

多くの自治体でICT環境を整えたにも関わらず、効果が生み出せない理由は何か。

多くの自治体が豊島区役所の事例を参考にしたにも関わらず、うまく進まないのは何故でしょうか?
私は以下の要因が関係しているのではないかと考えました。

  • 理由1)個別最適の視点からICTツールの選定を行っている
  • 理由2)働き方改革と言ってはいるが、ゴールの設定がICTツールの導入となっている
  • 理由3)ICTツールの導入に伴う業務の見直しが不完全である

理由1)個別最適の視点からICTツールの選定を行っている

一人の職員が担っている業務をICTツールによって効率化するケースは別ですが、ICTの導入効果は作業量が多く、時期に偏りがある業務の方がより高くなります。
このような業務では複数の職員が作業に当たっており、毎年のように作業する職員が変わるケースが多いと思います。このような業務にICTを活用して効率化を図る際には、業務を「見える化」して、どこの部分に負担がかかっているのか、業務フローを変えるとどのような業務に影響が出るのかを確認したうえで、ツールの選定をすべきなのですが、時として情報システムに詳しい職員が独断で選定してしまうケースが見受けられます。
このようなケースでは、その職員が関わっている部分だけが効率化され、他の業務との連携が悪くなることで、以前よりも不効率になってしまう危険があります。
ICTツールの選定には、業務に関わる多くの職員の視点・意見を取り入れましょう。

理由2)ゴールの設定がICTツールの導入となっている

規模の大きな情報システムの導入などでは、計画から導入までに数年を費やすものもあります。予算化され調達の年度になると、計画に携わった職員が全くいない、というケースもあります。
管理職であった私は部下の職員の目標設定が「〇〇システムを導入する」といったようなものを多数目にしました。
ここまでではないものの、何度も何度も財政部門と折衝しているうちに、当初の目的が見失われて、ツールを導入することが目的となってしまったケース、また逆に突然サービスが始まることとなり、業務分析もせずに慌ててツールの調達に飛びついてしまうケースを何度も目にしてきました。
「何が目的で、このシステムを導入するのか」「このツールが入ると、業務がどう変わるのか」、こういった視点を見失わずにシステムを導入することが大事なのです。

理由3)ICTツールの導入に伴う業務の見直しが不完全である

業務の最初から最後まで全てをカバーするシステムはほぼありません。逆をいえば、どんなに素晴らしいシステムであっても、それまで行ってきた業務の一部は残ってしまうのです。システムで補えない部分をどうするのか、という視点での業務見直しは必須だと思いますが、自治体の現場では、これまでの業務フローにシステムを当てはめようとするため、システムのコンセプトが崩れてしまい、担当者からは「使えないシステム」との評価を受けてしまっています。
はっきり言わせていただくと、「大量処理をバッチ処理に」「複雑計算をオンライン処理に」変えた初期の情報システム化から、あまり変わっていないのです。
「システムに業務を合わせろ」とまでは言いませんが、ICTを利用するからには、ICTの特性に応じた業務フローに替える必要があることを忘れてはなりません。

次回は「働き方改革に向けてICTツールを活用する前に自治体が行うべきこと」、について論じてみたいと思います。

筆者プロフィール:高橋邦夫(KUコンサルティング代表社員)

電子自治体エバンジェリスト、総務省地域情報化アドバイザー。豊島区のCISOとして、情報セキュリティ体制を構築して働き方改革を推進。その実績から平成27年、情報化促進貢献個人等表彰において「総務大臣賞」受賞。令和元年総務省情報通信月間表彰において「関東総合通信局長表彰」受賞。総務省「マイキープラットフォームによる地域活性化方策検討会」委員、文部科学省「情報セキュリティ対策推進チーム」副主査、J-LIS「セキュリティ支援コーディネーター」など。平成30年3月に退職・会社設立。

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