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「これからの公会計を考える」第二回:新地方公会計制度の概要(後編)

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「これからの公会計を考える」第二回「新地方公会計制度の概要」を前後編に分けて、お送りします。今回は後編となります。

 前回、明治政府発足以来連綿と続けてきた「現金主義・単式簿記」を補完する形で、「発生主義・複式簿記」の会計が導入されようとしている、という話を書きました。今回は、じゃあ、何とか主義とか何とか簿記というのは、何がどう違うのか、といったお話です。

 この辺りのお話、ご専門の先生にお尋ねしますと、正確、かつ、難しいご講義を頂ける訳ですが、当座、以下の様に考えて置けばどうでしょうか。

まず、現金主義ですが、これは、まさに、字義の通りと申しますか、ストレートに「現金の入金や出金を克明に記録してやろう、という主義(と書くと大げさな感じがしますが)です。国や地方の一般会計においては、予算の段階で、今年はこれだけの現金を集めるぞ、歳入するぞと見積もり、それをこういう使途で使うぞ、歳出するぞと見積もる訳ですが、それが、実際にどうだったのか、という記録が歳入・歳出決算になります。

そこでは、本来3月末まで支払う予定だったが払っていないとか、その逆とか、その様な債権債務の発生を積極的には想定しておりません。困らないか?実際には困ったりするので、いろいろと工夫もされております。例えば、出納整理期間というのがありまして、本来、3月末において締め切るはずの会計を5月末までオープンして置き、その2ヶ月間の間に、未収や未払いを極力清算してしまう。あるいは、将来の支払いを見積もっておく「債務負担」といった考え方も存在しております。結果的には、完全なる現金のやり取りだけではないので、修正現金主義と呼ばれております。

修正現金主義を支持する立場からは、憲法第86条の「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」という規定の存在や、財政法12条、42条の「会計年度独立の原則」を言われる向きもあるでしょう。

財政法第 12条【会計年度独立の原則】

各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。

財政法第 42条【歳出予算の繰越制限及び事故繰越】

繰越明許費の金額を除く外、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、これを翌年度において使用することができない。(以下略)

 「今年度のお金の事は今年度中に決着させる」というのが、大前提だという事ですね。ただ、将来世代の税金をあてにして発行する赤字国債などの資金調達も「歳入」であることから、何だか「会計年度独立」と言われても、その輪郭がぼやけてきているような気がします。歳出のほとんどが現金で支払われるに対して、歳入として入ってくる現金の中に、「税金の前借り」が含まれている以上、そうやって「前借り」した結果として残った借金の額と、その「前借り」の使途、すなわち、何を買ったのか(学校を作ったのか、下水道を通したのか等々)、「残高」の情報についても、お金の流れと同時に知りたいところです。

 実際には、借金の残高や何に使ったのか、という使途については、今でも、行政から、ある意味、詳細に報告されているのですが、何と申しますか、「バラバラ」に報告されるため、あっちを見たりこっちを見たり、という事になります。

 さて、発生主義ですが、まあ、兎も角、3月末で一旦締め切って、その時点で清算の終わっていない債権債務などは素直に「終わってません」と記録しておけばよいではないか、という立場です。実際の現金の動きと、権利義務の関係を切断してしまう。逆に、現金の動きとは乖離しても、権利/義務関係が正確に記述できる方が良い、という立場かと思います。民間企業の様に1年ごとに区切って利益を計算する必要がある場合、発生主義を採用することになります。

逆に、公共部門では、そもそも利益計算などしないのだから、発生主義など行う必要性は認められない、というご意見があります。

例えば、学校の校舎を作るために支払いをする、という取引において、現金主義では、実際に払ったのであれば、幾ら支払ったか、現金の支出額を記録して、おわり。発生主義では、払って現金は出て行ったのだけど、校舎という資産が残りましたよ、と記録する。あるいは、一部支払ったのだけど、残りは来年になりますということで「未払いがあります」と記録しておく。

 前者が、予算どおりに現金を貰ったか払ったか、に意を用いているのに対して、後者は、その予算どおりに支払われたか、についても気にしつつ、加えて、その結果として、どうなった?も気にします。ここでは、「校舎が残った」「未払いが残った」というのが結果です。だけど、別に、使用料もらっている訳でもないし、利益計算したい訳でもない。一体、何の役に立つのか・・・。

しかし、公共が行うサービスの中でも、上水道や病院など、最初から発生主義の採用が義務付けられているものもあり、単純に「公共だから現金主義」という事ではなさそうです。では、なぜ、上水道や病院事業などは、発生主義を採用しているのか。公共全般に対して、発生主義を採用することの是非については、公営企業会計の存在に、ヒントがあるのでは、と思われます。

 と、いう事で、今回、公共団体の会計に発生主義を導入する際の「ご利益」をお示しする所まで至りませんでしたが、次回は、一旦、「単式簿記と複式簿記」という話に移りたいと思います。