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地域医療の視点から(1) 地域包括ケアの理想と在宅医療の現実

ジャパンシステム株式会社
公共政策・行政改革ディレクター
げんきらいふクリニック院長
山中光茂

国や各地方自治体において、「地域包括ケア」の取り組みが進められているといわれています。といいながら、私は進められているという言葉は適切でないと感じてしまうのです。現実的には、「地域包括ケア」の理念がうたわれ、予算がつけられているだけの段階というのが現場に携わる一人の在宅医療医としての感覚なのです。私自身もその「予算」の一部をいただいて、全国の自治体での「地域包括ケア」に関わる講演をすることもあれば、推進会議に委員として関わることもあります。ただ、各地域での「地域包括ケア」の現実に触れていくとその実態がよく分かります。多職種連携の会議を開催し、著名な講演者を呼んで行政や医療福祉関係者の意識啓発をし、そして、形だけの計画に基づいて中核病院の病床数削減の取り組みを誘導しようと声がけをしていく、その程度の極めて「形式的な取り組み」がほとんどなのです。

もちろん、地域における医療・介護事業者を中心とした多職種連携の会議を開催することで、現場に携わる方々の情報交換を促し、ネットワークを強化することは重要なことです。ただ、それは行政が誘導することで活性化するものではなく、現場で活動をしている関係者がその実情を感じながら日々の「現実」と向き合う緊張感のなかで進めていくものであり、一部の代表者だけが半強制的に会議や研修会に参加させられて進んでいくものでは決してありません。

また、中核病院においては、診療報酬の改正を誘導材料にして、急性期病床から「地域包括ケア病床」へ移行し、最終的に在宅医療にという道筋も進めている「ふり」をしているが、現実としてはまだまだ中核病院側の医師や看護師、連携室調整員における在宅医療への理解が十分ではなく、そして、各種機関のネットワーク構築も不十分なため、単に国の制度変更に対応した小手先だけの対応に終わっているのが現実なのです。

そんななか、在宅医療においては制度としての問題だけではなく、現場側の問題も山積しています。現在、在宅で最期を迎えることのできる人は約12%です。戦後間もなくの1950年には80%を超えた方々が自宅で亡くなっていたのが、徐々に「在宅看取り」の比率は下がり続け、現在では逆に80%を超える方々が病院や施設で最期を迎えることになっているのです。在宅で最期を迎えるということは「理想としてのビジョン」でありながら、現実にはかなわない「実現できない理想像」となっているのです。「形式的な地域包括ケア」の推進が行われても、現場における「お看取り」を前提とした在宅医療の広がりはまだまだなのです。都内における多くの在宅医療機関は、24時間態勢を詠いながら、現実には、夜勤体制は日頃は特定の患者を受け持っていない非常勤医師や夜間待機だけを専門的に扱う医療機関に丸投げしていることが多いのです。また、紹介される患者の受け皿はいったん広く持ちながらも、家庭環境や病状の悪化など困難事例にあたると、安易に救急搬送を選択し、家族も必ず望んでいない施設入所を誘導することによって、一件の診療時間を短くして、必要以上の多数の患者を抱えながら、診療効率を優先することで「在宅看取り」を前提としない在宅医療機関も少なくないのです。

24時間態勢で多職種が連携して、最期まで自宅で過ごせる幸せを創っていこうとするのが、本来の地域包括ケアの「理想」であります。ただ、「現実」には「形式的なビジョン」と「財源」が先行するなかで、一人ひとりの幸せや痛みに寄り添っていく現場の体制が広がっていくためには様々な課題があるといえるのです。その解決をしていくためには、トップダウンでビジョンと予算だけを押し付けていくような「地域包括ケア」ではなく、「現場」での課題や解決するための障壁を真摯に関係者で話し合い、ボトムアップによる連携体制を地道に築いていくしかないのです。

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