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公共政策&行政改革コラム9「動くことはリスクであり、動かない責任は問われないという行政の常識を超えていくために」

ジャパンシステム株式会社
公共政策・行政改革ディレクター 山中 光茂

市長として2期務めていると、行政職員の独特の行動基準と組織としての暗黙のルール感が分かるようになってきます。

その1つに「動くことはリスク、動かない責任はノーリスク」という行動の土台に通底したものがあります。このコラムを読まれた行政職員には、私はそんなことはない、私たちの組織は常にチャレンジしている、と言いたい皆様もたくさんいると思います。実際、松阪市役所でもその行動の土台にある感覚を乗り越えて、「チャレンジ」をしようとしている、またはしてきた職員さんは何人もいました。ただ、その「チャレンジ」を現実にしていくためには「組織」のなかで乗り越えなくてはならない「見えない」ハードルがたくさんあったことも事実でした。

民間事業者だと、明白な利益が生まれ、持続可能性のある事業であれば、長期的な予算計画・事業計画に基づいて人材配置をし、投資をしていくことは当然となります。一方で、行政の場合には基本的に各部局の「縦割り」の予算配分と人員配置のなかで、「新しく仕事が増えること」を徹底的に避けようとする傾向があります。

前回のコラムで書いたように、多くの自治体では1つひとつの政策予算の必要性や不可欠性から精査をされて全ての予算が積み上るという訳ではなく、国からの交付税と税収予測に基づく「中長期の財政計画」というアバウトな試算に基づいて、それを基準として各部局に「前年度比何%」といったかたちで「縦割り」な予算配分がなされるのです。だからこそ、市長や副市長、政策部局や財政部局がよほど現場をみながら、1つひとつの徹底した予算の査定をしなければ、必要のない予算でも慣例でいつまでも残り続けてしまうのです。

一方で、市民にとって必要な予算でも新規事業としてその部局の予算の余裕がなければ、政策判断や現場の声による判断ではなく、単純に「財政」という中身のない議論による判断により、行われないことになるのです。そのことが、職員が「動かなくていい理由」を安易に創ってしまう温床になっているのです。

もう1つの「動かなくていい理由」ができる温床は、自治体の構造による慢性的な人員不足と柔軟性がない人員配置によります。10数年前から国の方針として地方自治体の人員削減による財政改善を目指すため、一定のルールを創らせる方向に誘導しました。そもそも、国にとって都合のいい部分だけ地方分権を進めていく方針のなか、多くの事業や許認可権限が国や県から基礎的自治体に流れてきて自治体が行う事業量が大幅に増えているなか、国や県の人員削減は進まず、地方にだけ仕事を押し付けながら人員カットも進めるということにも無理があったのも事実です。

それでも、地方自治体職員は素直で、お国様から言われると素直に(やや愚痴はいいながらも)、その方針に従おうとします、現実の人員の必要性を横においてでも。仮に首長が新規事業の方針を安易に決めても、簡単にはそれを行うための人員を増やして対応することは現実には困難です。また、新規事業のために国が満額の補助を出したり、市民が汗を流して取り組むことで地方自治体として予算が全くかからないものであったとしても、市の職員の「手間ひま」がかかってしまうものだと事業を行うことに二の足を踏んでしまいます。

予算も人員も基本的には部局の「縦割り」が前提にあり、事業の目的やその効果、効率性などが前提になっていないのです。

松阪市においてはその弊害を打破するために、まず予算においては単に財政部局による「中長期計画」という「幻想的な財源論」にとらわれた「枠配分」をするのではなく、各部局のそれぞれの事業の必要性と不可欠性を明確にして、基本は予算を「積み上げていく」、そして「精査する」という段取りを1年かけるようにしました。そのことで、結果として既存の「中長期計画」で当たり前となっていた予算よりも大幅に削減もできました。そして、何より予算の枠にはまらない現場にとって必要な事業を職員と話し合いながら「やるべきことをやる」という意識を生み出すことができました。

人員についても、基礎的自治体の現場を知らない国からの一方的な削減の方向性に誘導されることを止めて、本当に各部局で今の仕事と予算の執行に見合った人員をきめ細かく確認することで、市民の現場に資する「仕事のできる人員配置」を徹底することにしました。

私が繰り返し職員に話していたのは、「職員一人ひとりの動くことも動かないことも、判断することも判断しないことも、挨拶することもしないことも、すべての市職員としての姿勢が市民の幸せにも痛みにも、次の世代の幸せにもつながるという緊張感と誇りを持ってほしい」ということでした。

「動かないリスク」も当然のように市民の幸せにも痛みにもつながるという緊張感が、それぞれの行政現場に生まれることを期待するとともに、それを創りだすために、既存の行政の常識を破っていくための地道な行政システムの構築を、常におこない続けていくことが大切だと感じています。

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