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自治体における民間連携に関するコラム12 庁舎整備における留意点

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

平成の大合併に伴う合併特例債の活用期限が迫ってきたことや東日本大震災、熊本地震を契機に、日本各地で老朽化した庁舎の耐震対策(大半は建て替え)が検討されている。筆者は熊本県八代市のアドバイザーをしていることもあり、震災から4か月後に被災した宇土市と八代市の両庁舎を視察した。

甚大なダメージを受けた庁舎よりも衝撃的だったのは、両市ともに周辺市街地の被災状況が(表面上は)非常に軽く、庁舎との残酷なまでのコントラストをなしていたことである。また、両自治体はともに庁舎の問題に決して背を向けていたわけではなく、宇土市では2月に有識者委員会から庁舎の早期耐震化に関する答申が出され、八代市に至っては震災当日に、議会で庁舎に関する第10回特別委員会が開かれていた。

自治体では、文部科学省の比較的手厚い補助制度や学校施設の平成27年度までの耐震化完了の方針を受け、ストックの30〜60%を占める学校施設の耐震対策を優先し、「未来ある子どもたちの安全性の確保」を図ってきた。この方向性は、ほとんどの小中学校が主たる避難所・避難場所と指定されている点でも合理的であるが、一方で庁舎の耐震対策は(特に平成の大合併を行わなかった自治体を中心に)財政難・マンパワーの不足等から後回しにされてきた。新聞報道によると、庁舎が被災した自治体では応急危険度判定・罹災証明の発行など、初動期に必要とされる業務に支障が出たとされる。緊急時における庁舎機能の継続性確保は自治体の至上命題になると同時に、今後は財政難を理由とした庁舎の機能停止は許されない状況になっていくだろう。

一方で、庁舎の建替や耐震化は自治体にとって莫大な投資を伴うことから、鳥取市の住民投票を含む一連の動きに見られるように、市民・議会などの意向と政治的な理由で方向性が二転三転してしまう事例も散見される。そのため、多くの自治体では基本構想の段階から市民や議会のニーズを丁寧に汲み上げ「行政効率の高い、環境負荷を考慮した、地域のシンボル、市民交流の場・・」といった数々の思惑やコンセプトを散りばめ、「みんなの納得感の高い」合意形成が重視された庁舎を生み出すのである。

しかし、こうした様々な思惑やコンセプトに比例して必要な床面積・機能は増大し、イニシャルコスト100億円を超えるような計画が業界新聞を賑わすこととなる。仮にイニシャルコストが40万円/㎡、LCCはイニシャルの4~5倍、160~200万円/㎡が必要だとすれば、10,000㎡の庁舎の10%の床面積を計画時に削減できれば、理論上はイニシャルで4億円、ランニングでは16〜20億円の経費削減効果に直結する。同時にシンプルな意匠・メンテナンス性とコストを意識した設備計画をすればイニシャルコストの単価低減、設備更新における付帯工事の抑制、光熱水費等のランニングコスト削減の効果も得られるかもしれない。これらの他に特に留意すべきと考えるのが、①シンボル性、②環境配慮、③市民交流スペースの3点である。

シンボル性を創出するための意匠に関する特別な検討プロセス、新素材や特殊な工法のためのモックアップ作成や試験など、通常のオフィスビルでは不要となるこれらの要素は、イニシャル・ランニングコストの増加とも同義である。環境配慮のための屋上・壁面の緑化やバッテリー付きの太陽光発電設備は、良質な室内温熱環境の形成、光熱水費の削減に結びつくだろうが、投資回収できるように計算されているだろうか。

そして、最近の庁舎整備のトレンドになっている市民交流スペースは、本当にイメージパースどおり「多くの市民が日常的に訪れ職員とまちの未来を語り合う場」として使われるのだろうか、そもそものニーズはあるのだろうか。筆者は全国の数多くの自治体を訪れているが、これまで一度も市役所の市民交流スペースと言われる場で、市民と行政がクリエイティブな議論をしている場に遭遇したことがない。市民協働を掲げるのであれば、公民館や集会所などの「公の施設」や、多くの人々が集うショッピングセンターなどの民間施設に行政が自ら出向いていくべきではないか。

実際に、吉川市の市庁舎建替に関する市長キャラバンでは「市民の交流の場があれば良いと思うが、隣に集会施設があるのに交流センターを作る必要があるのか。屋上緑化などを省いて維持管理費を下げるなど考えて欲しい。これだけケチっても機能のあるコンパクトな建物でやっていくという発想でやり直すのも非常に面白いと思う。庁舎は一般企業でいえば事務所であり、贅沢で豪華な建物は必要ない。本当に立派な議場が必要なのか、他の都市のように立派なものを造る必要はないと思う。」といった市民意見も寄せられている。

庁舎は、行政が事務を執行するうえで不可欠な「公用財産」であり、平常時の機能だけでなく緊急時にもその機能確保が求められ、結果的に相当のイニシャル・ランニングコストが必要となる。行政を取り巻く環境が厳しいなかでは資金・マンパワー・ノウハウを外部から調達するPPP/PFIが全てを解決する魔法の手法ではないが、一助になるだろう。

基本設計・実施設計・建設工事を順に一般競争入札する従来型発注の既成概念を捨て、白井市では施工者が設計段階から関与するECI方式、清瀬市・府中市等では発注者の補助者・代行者が、技術的な中立性を保ちつつ設計・工事発注方式・コスト管理などを行うCM方式といった発注方法の工夫もされている。高浜市や大東市では庁舎の位置・整備手法・整備コストや資金調達について一連の提案を求めるといった動きも出始めている。

20年間のリース方式で整備された高浜市庁舎は、非常にシンプルな意匠と単純な平面構成であるが、よく考えると一流企業の本社ビルも近年はシンプルな意匠のものが大半になっている。果たして庁舎をはじめとする公共建築は、新しい建築技術や芸術的な意匠の具現化の舞台なのだろうか。そして、その原資は市民からの税金であるべきなのだろうか。

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