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自治体における民間連携に関するコラム⑦ 自治体を蝕むウィルス、アリバイ作り

ジャパンシステム株式会社 コンサルティングアドバイザー
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会 業務部長 寺沢 弘樹

近年、公共施設やインフラに関連する様々なプロジェクトの構想段階で、自治体が自ら民間事業者の意向と市場性を把握するサウンディング型市場調査を行う事例が急増している。行政や一部有識者らによる「こうあったらいいな」で、あるいは国の各種補助金に依存してイニシャルコストだけを調達したプロジェクトが日本各地で窮地に追い込まれ自治体経営を脅かす中、自治体が市場性を意識し始めたことには、非常に大きな価値があるだろう。民間事業者にとっても、より早い段階で行政と対話する機会を「公式」に得ることは、同様にビジネスチャンスを拡大するとともに、自らのノウハウをプロジェクトに反映するうえでも好ましい流れであるといえる。

実際に、筆者が公務員時代に実施した総合体育館の指定管理者の公募条件を検討するためのサウンディング型市場調査では20グループが説明会に参加、うち6グループと個別の対話を行い、トレーニングルームの設置を認める条件変更を行うなど民間事業者にとって魅力的な事業スキームを構築することで、民間施設も含めた体育施設の経営実績を多数有する事業者の指定に成功している。

また、内閣府から要請されている「PPP/PFI導入の優先的検討規程」では、(おそらく)PFI法に基づくPFIが前提とされているため、行政が自ら事業手法の選択を行ったうえで簡易な検討、詳細な検討を行うフローが例示されている。事業手法や様々な与条件(つまり事業の構想段階)で事業の大半の要素は確定し、事業採算性も大きく左右される。行政が「自らの経験と勘」を頼りにこの部分を決めてしまうのではなく、サウンディング型市場調査により「客観的な市場性」を把握することで事業の可能性はより広がるものと考えられるため、優先的検討規程の策定に取り組む自治体は是非この段階でのサウンディング型市場調査を盛り込んでいただきたい。

しかし、サウンディング型市場調査が急速に広まる一方、じわじわと行政を蝕む「アリバイ作り」という名のウイルスが増殖し始めている。先日、相談を受けたある自治体では、数十年にわたり塩漬けになっている未利用市有地の活用を考えるため、サウンディング型市場調査を検討していた。ただし、先行して市民アンケートや文化人を中心とした有識者会議で土地利用のコンセプトが検討されており、政治的な理由から時間の制約も課せられているという。

有識者会議で提言された「癒し、食・・・」といった行政ならではの優等生的コンセプトが与条件になってしまうと、他との差別化が図れなくなり民間の進出意向が減退する(あるいは数年で経営破綻するようなプロジェクトになってしまう)おそれがあったため、相談を受けた筆者はできるだけ最初はフラットな状態で当該地の潜在的なポテンシャルを確認してはどうかとのアドバイスをしたが、彼らの反応は鈍かった。

後日、改めて関係者と再会する機会があったので本音を聞いていくと「①全体のスケジュール感は崩したくない、②有識者会議の意向は尊重したい、③サウンディング型市場調査では内容よりも参加事業者数を確保したい」との考えを持っていたようだ。筆者も公務員を経験してきたので思いはわからなくもないが、経営的な視点があまりにも希薄であろう。民間であれば、これだけの高いポテンシャルを有す土地があれば、事業採算性の最も高い活用の方向性を必死に模索するはずである。

前述の本音の中で「③内容よりも参加事業者数を確保したい」は、サウンディング型市場調査の勘違い、民間事業者のノウハウ・労力に対する冒涜であり、「やってます行政」の典型であろう。むしろ、日頃から付き合いのある民間事業者に「お付き合いで参加してもらう」アリバイ作りの市場調査では、客観的なデータ・市場性が見えるはずもない。結果的に、少数の民間事業者が収益確保と失敗した場合のリスクを最小限に抑える提案しか出さず、リアルな市場性が把握されないまま(あるいは偏向した思惑を反映しながら)プロジェクトが進行してしまう。そして将来、「市民・有識者・民間の声を聞いたにも関わらず残念ながら・・・」という行政の失敗の言い訳に使われ、コンサルに丸投げしてきた可能性調査や経営責任を伴わない有識者会議・市民ワークショップと同じ道を辿るだけである。

こうした問題は今に始まったわけではなく、数年前に都道府県を中心に進められたESCO導入指針でも発生している。最初に指針を作成した自治体では、どの施設でESCOが導入できるか、どのような優先順位でやっていくことが効率的なのか前向きなものとして整備したはずだったが、追随する他の自治体の検討過程では徐々にやらないための裾切りの基準として指針が整備され、導入可能性のある施設をゼロ回答とした自治体まで現れてしまった。

更に今後は、公共施設の再配置計画や内閣府から要請されているPPP/PFI導入のための優先的検討規程でも残念ながら発生してしまうのではないか。「①総事業費10億円以上または年間の維持管理費1億円以上の事業でPFI法を前提するもの、②VFM10%以上、③従来手法・直営による施設管理で支障が生じているもの、④市内事業者の受注機会に影響を及ぼさないもの」など、対象案件が生じないようにそれらしい理論的な高いハードルを幾重にも設定することは悪い意味で百戦錬磨の行政では他愛もないことである。

本稿では皮肉めいた表現をしているわけだが、重要なのは自治体が生きるためにいかにして資金・ノウハウ・マンパワーを調達し、明るい未来を切り拓くかである。やらない理由・アリバイ作りをして得をするのは誰なのか、その選択によって将来がどうなるのか、行政は真剣に自らの行き方を考え、自らの心から発生するウィルスを駆除してほしい。
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